#40『薄明』第8章:出発②
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翌朝、カーテンの隙間から差し込む眩しい陽光に、茉莉は重い瞼を持ち上げた。
全身が、経験したことのないような気だるさと鈍い痛みに包まれている。
昨夜の記憶が、断片的に脳裏をよぎる。
キッチンで、カウンターに座らされ、舌や指で弄ばれた後、立ったまま激しく求められたこと。
さらにそれに飽き足らずそのままベッドへ運ばれ、2度目だというのに何度も体位を変えて貫かれたこと。
そして茉莉の作った料理で食事を終え、やっと横になれると思ったらまたしても彼の「熱」に押し切られ三度目を迎えたこと……。
(……信じられない。……あんなに……)
茉莉は弱くくちびるを噛んだ
最後は「もう無理……お願い、休ませて……」と、半泣きで懇願してようやく眠らせてもらったのだった。
ふと横を見ると、そこには三ヶ月ぶりに隣に眠る、愛しい男の姿があった。
シーツから覗く逞しい肩には、茉莉が無意識に立てた爪痕が赤く残っている。
昨夜、あれほどまでに茉莉を翻弄し、貪り尽くした狼はどこへ行ったのか。
櫂は会社での苦しく辛い長い戦いを終えて、今ようやく心から安らいで眠っていた。
珍しく茉莉よりも遅くまで寝ている
「……ん、……茉莉……?」
気配に気づいたのか、櫂がゆっくりと目を開けた。
寝起き特有の少し掠れた声と、柔らかな微笑み。
その瞬間に、昨夜の痛みも疲れもどこかへ吹き飛んでしまうのだから、茉莉も相当、彼に毒されている。
「……おはようございます。茉莉……あぁ……本物だ…」
櫂が愛おしそうに茉莉の頰に手を添える
茉莉は猫のようにその手に頬を擦り寄せ、クスッと笑った
「おはよう櫂。……はい本物ですよ?寝ぼけてるの?」
「いえ…何だか幸せで……身体、痛くありませんか?」
「……。……聞かないで」
茉莉がシーツを鼻先まで引き上げて顔を赤らめると、櫂は愛おしそうに彼女を腕の中に引き寄せ、その額に優しいキスを落とした。
「すみません…昨日は止まれなくて……。
何せこの3ヶ月、ギラギラと脂ぎった男たちばかりに囲まれて数字を追いかけている日々だったので…
あなたの天使のような柔らかさや美しさに溺れてしまいました。ふぅ…今もまだ夢の中にいるようだ…」
櫂はゆっくりと茉莉の髪の毛を優しく撫でながら、幸せそうにその香りを堪能した
「お詫びに今朝は私が朝食を作ります。」
櫂はそう言うとベッドを抜け出しシャツを着て、ハッと気づく
「あ…そういえば、大事なことを伝え忘れていました。
今回の役員会の成果報酬として、社長──旦那様から、10日間の休暇をいただきました。それと『二人でどこか旅行にでも行ってこい』と、十分すぎるほどの臨時手当も」
「え…? 十日間も? お父様がそう言ったの?」
「はい。昨日までは、結果を出すことだけに全神経を注いでいて、その後のことまで考える余裕がありませんでしたが……。ようやく、あなたを独占できる時間が手に入りました。」
「あのお父様が…」
茉莉にとってはあの会食の修羅場で見た父が最後だった。
あれから3ヶ月、2人の関係が本当に認められたのだと実感すると胸がいっぱいになってしまった。
「あなたが頑張ってくれたからね……ありがとう…。本当に…。本当に良かった」
櫂は茉莉の顔を両手でつつみ込み愛おしむ
「ええ…十日間、誰にも邪魔されない場所へ行きましょう。……南の島や…どこでもいい。
パッキングは私がやりますから、あなたはそこでゆっくり身体を休めていてください」
「もう、昨日あんなに私を疲れさせたのはどこの誰よ」
茉莉が少しだけ拗ねたように唇を尖らせると、櫂は悪戯っぽく口角を上げた。
「……私ですね。ですので、その責任を取って、旅行の間中、全力であなたを甘やかさせていただきます」
キッチンの窓から差し込む柔らかな光を浴びながら、櫂が手際よく用意した朝食の香りがダイニングに広がっていた。
椅子に座った茉莉の前に、色鮮やかなフルーツサラダと、湯気を立てる焼きたてのトーストが並べられる。
「どうぞ。しっかり食べて体力を回復してくださいね。昨日、随分と消耗させてしまいましたから」
「もう!そんなにいちいち言わなくていいってば」
茉莉が顔を赤らめてそっぽを向くと、櫂は愛おしそうに彼女の頬に指先を滑らせた。
その手つきは驚くほど優しいが、指の節々には昨日彼女を組み伏せた男の強さが宿っている。
「それで、行き先ですが……。モルディブの水上ヴィラはどうでしょうか。誰にも邪魔されず、海と空しかない場所です」
「モルディブ? 素敵!でも、急にそんな予約取れる?」
「大丈夫でしょう、夏も終わりましたし西園寺のネットワークと社長から預かった『臨時手当』を甘く見ないでください。
なるだけ急いで……出発は明後日です。今日中に準備を済ませましょう」
茉莉の瞳が、少女のようにキラキラと輝きだす。
三ヶ月間、ずっと不安と寂しさに耐えてきた彼女にとって、それはまさに天国からの招待状だった。
「水着……買わなきゃ。向こうで着るワンピースも」
「ええ。食事のあと、一緒に買い物に行きましょう。……ただし、水着選びには私も立ち会わせてください。
あなたが他の男の視線にさらされるのを、今の私は許容できそうにありませんから。
露出の多い水着姿は、ヴィラのプライベートプール限定に。いいですね?」
「……もう相変わらずなんだから……分かったわよ」
不満げな口調とは裏腹に、茉莉の胸は櫂の甘い独占欲に満たされていく。
朝食を食べ終える頃には、二人の会話はすっかり「楽園で何をするか」で持ちきりになっていた。
シュノーケリング、海を見ながらのディナー、ショッピング、そして星空の下での語らい……。
茉莉が純粋なアクティビティを想像して楽しんでいる一方で、櫂の頭の中には、誰もいないヴィラのバルコニーで、波の音に紛れて彼女に「絶頂を告げる練習」をさせる光景が、鮮明な解像度で描き出されていた。
「……楽しみですね、茉莉」
「ええ、本当に楽しみ!」
何も知らずに微笑む茉莉の指先を、櫂はテーブルの下で、少しだけ強く、独占を確かめるように握りしめた。
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