#41『薄明』第8章:出発③
前回のお話はこちら↓↓↓
16時頃昼寝して起きたら19時でした。驚き。疲れてたんかな。そのためバタバタして更新遅くなりました🙏🏻
それではどうぞ
煌びやかな免税店が並ぶ、成田空港の搭乗エリア。
搭乗ゲートへと続く長い通路を2人は大きなキャリーバッグを引きながら歩いていた
「水着、あれでよかったかしら…少し大胆すぎない?」
昨日買った水着の話題を出しながら少し頬を染めて歩く茉莉の肩を、櫂が愛おしそうに引き寄せる。
「いえ、よくお似合いでした。いいんですよ、どうせ見るのは私だけですから。
それに脱がせるのも……いや、脱がさないままプールで…というのもいいかもしれませんね。
現地に着くのが待ち遠しいですよ」
「は?!何言ってるのよ櫂!」
涼しい顔でそんなことを言ってのける櫂の腕を茉莉は真っ赤になってポカスカとたたく。
「…いたた…全然痛くないですけど…。現地に着いたら、まずはバルコニーでシャンパンでも飲みましょうか」
櫂が冗談めかして茉莉の耳元で甘く囁き、その腰を抱き寄せた、その時だった。
「……、茉莉……さん?」
背後から届いた、低く、聞き覚えのある声。
茉莉の心臓が、ドクンと大きく一度跳ねた。
この声は───
振り返ると、そこには数ヶ月前、血を吐くような思いで別れを告げた男――九条稜真が立っていた。
かつての隙のない三つ揃えのスーツではなく、シャツの袖を無造作に捲り、小さなキャリーバッグを引いた姿。
再起のために世界を飛び回っているのだろうか、その表情には以前にはなかった険しさと、孤独な闘いの跡が刻まれている。
「……稜真、……さん」
空港内のアナウンスも、行き交う人々の足音も、一瞬ですべて消え去った。
稜真の視線が、茉莉の腰に回された男の手に注がれる。
そして、その持ち主――かつて茉莉の後ろに影のように控えていた男を見上げた。
自分を見る時、いつも瞳の奥に青い炎のような静かな敵意を秘めていた、あの男。
「……まさか……」
稜真の喉が引き攣るように動く。
失意のどん底で、いつか必ず彼女を迎えに行くと、それだけを糧に歯を食いしばって生きてきた。
なのに。
それなのに。
自分の代わりに彼女の隣に立ち、その華奢な腰を当然のように抱いているのは、あの日見下していたはずの執事だった。
「……茉莉さん……
そんな……まさか、こいつと……? 」
2人の姿が稜真の網膜に映る。
信じられない。
「そうなのか? ……こんな、……ただの執事だった男と……!」
「九条様。奇遇ですね」
茉莉が言葉を発するより早く、櫂が無表情で、そして圧倒的な圧を持って答えた。
「……お元気そうで何よりです。我々はこれからフライトですので、失礼を」
「待て!この野良犬め!」
稜真の拳が、キャリーバッグのハンドルを白くなるほど強く握りしめる。
衝撃、憤り、そして耐えがたい屈辱。
「……あんた、茉莉さんに手を出したのか。彼女の失意の隙を狙って盗っ人のような真似を……
執事の皮を被って、……彼女を、汚したのか……!」
その剥き出しの敵意を正面から受け止め、櫂は微塵も揺らがなかった。
「……汚した、ですか。……心外ですね」
櫂は茉莉を自分の胸へと引き寄せた。
「……私は、彼女を一人の女性として愛し、彼女もまた、私を選んだ。……それだけのことです、九条様…いや、九条さん」
稜真は信じられないといった表情で茉莉を見た
あまりにも突然、かつて愛した男が目の前に現れ、茉莉もまた青ざめている
「嘘だろう…そんな…。
茉莉さん……」
稜真は眉間に深いシワを刻んでこちらを見ていたが、やがて低く這うような声で忠告をした
「茉莉さん…、こんなやつはあなたに相応しくない。
僕はあなたと交際してる時にこいつの身辺を調べさせたことがあるんだ」
櫂の目がピクリと細くなる
稜真は櫂を睨みつけて事実を突きつける
「あなたには黙っていたけど…こいつはね、夜な夜な女を漁って……これまでどれほどの数の女性と関係を持ってきたか知っていますか?
プロだろうと素人だろうと手当たり次第に。隠し子の1人や2人いたっておかしくない。
不埒で、破廉恥で…汚らわしい…!
こんなやつが清らかなあなたと……あり得ない!
クソっ……あんなことさえなければ、僕が…、この僕があなたを幸せにしたのに…!!!」
周りの客が何事かとこちらを見ているのも構わず稜真は続ける
「あなたみたいに純粋な人が……
こいつからしてみれば君を言い包めることなんて赤子の手をひねるくらい簡単なことだ
どうせ傷つけられて飽きれば捨てられる…!
目を覚ましてくれ、茉莉さん!
こんな…こんな最低最悪の狂犬と…!」
「やめて」
茉莉は冷静な声でピシャリと彼を制した
「……知っています。櫂が、過去に不特定多数の女性と関係を持っていたことは。……本人から聞きました」
稜真が顔を歪ませる
「…でも、それは私のせいでもあるんです。櫂は長い間、私をずっと愛していてくれました。
でも私は櫂の気持ちを知りながら、見て見ぬふりをしていた…。
櫂の気持ちを知っていながら側に置き続けていた……私の罪です」
櫂が驚いて茉莉を見る
「私は櫂の存在の大きさを恐れていた。彼がいなければ生きていけない自分を自覚するのが怖かった…
だから外に自分の居場所を求めました。
外に、自分の愛を見つけようと必死にもがきました。
そして…あなたに会った
あなたを愛し始め、安心していました
『ああこれで、私は櫂がいなくても大丈夫かもしれない』と…
……櫂が私を愛していることを知りながら…
応えられないくせに側に置いて…
傷つけて………苦しませて…そんな姿に…私は救われていた……
最低なのは私です」
沈黙が続く
「櫂はあなたが思うようなひどい人ではありません。
もし、…隠し子…そのような不憫な存在があるのであれば、その子が成人するまで、私の罪として誠実に対応させてもらいます。
…ただし遺伝子検査などはさせていただきますので。
それでは………失礼…」
茉莉は真っ青になりながら、踵を返して搭乗ゲートへと進んだ
気を抜くと倒れてしまいそうだった
背中から稜真の叫ぶ声がする
「僕は……君を愛してる。
今も、ずっと君を愛しているんだ!諦めてなんていない。
いつか絶対にそいつから君を奪い返し…僕が君を幸せにする!必ず…必ずだ!茉莉さん…!覚えていてくれ!」
茉莉の耳には稜真のその真摯な叫び声だけがこびりついていた
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やっと稜真出てきた。
