『薄明』番外編 : 無駄話にはご用心
今日は本編はお休みして、番外編になります。14章で茉莉の事業の立ち上げが許可されましたので、今後は彼女も度々本社に出勤することがありますが、そんな頃のお話しだと思っていただければ。では、どうぞ(^^)
ある日の西園寺グループ、経営戦略室。
常に緊張感の漂うその部署の扉が、控えめにノックされた。
「はい」
ドアに近いデスクにいた入社5年目の高木が顔を上げると、そこには場違いなほどの輝きを放つ美しい女性が立っていた。
「突然ごめんなさい。室長の黒崎さんは、いらっしゃるかしら」
高木は、隣の席の同期・西村と共に息を呑んだ。
現社長・征嗣譲りの端正で思慮深い顔立ち。悠然とした立ち振る舞い。
ふわりと微笑むと、その黒目の大きい瞳はまるで宝石のように光を反射し、周囲を魅了せずにはいられない不思議な磁力を放っている。
手入れの行き届いた長く艶やかな髪。白磁のような透き通った肌。
隠しきれない圧倒的な品格──
(なんだこの人…!オーラが違う……!)
彼女の放つただならぬ空気に気圧された高木は、慌てて立ち上がった。
「あ、も、申し訳ありません! 黒崎はあいにく外出中でして……っ、あの、何かご伝言があれば承りますが!?」
女性は少しだけ残念そうにして、すぐに「いえ、大丈夫」と首を振った。
「仕事で本社まで来たから、タイミングが合えばお昼でもと思ったのですけれど……お仕事のお邪魔をしてしまってすみません。またにしますわ」
踵を返そうとした彼女は、ふと何かを思い出したように足を止め、高木に視線を落とした。
「……もしかして、高木さん、ですか?」
「えっ!? は、はい! 高木ですが……なぜ私の名前を?」
驚く高木に、彼女は鈴を転がしたような清く愛らしい声で笑った。
「やっぱり。いつも彼からお話を聞いているんです。高木さんは若いのにすごく頑張り屋で、骨があるって、よく褒めているものですから」
「室長が……俺を!?」
信じられないという顔をする高木を余所に、彼女の視線はたおやかに隣の西村へ移る。
「ということは、あなたが西村さんかしら。あなたのことも、とても見込みがあると話していましたわ。
…今日は彼には会えなかったけれど、いつも彼を支えてくださっているお二人に会えて、本当にいい日になりました。これからも、よろしくお願いしますね」
花のような笑顔を向けると優雅に一礼し、彼女は戦略室を後にした。
バタン、とドアが閉まった後。
静まり返っていた室内で、高木と西村は同時に顔を見合わせた。
「……おい、嘘だろ……。あ、あれ、噂の西園寺の……お嬢様だよな!?」
「初めて生で見た! オーラ半端ねえ! 芸能人とかそういうレベルじゃねえぞ!なにあれ、めちゃくちゃ綺麗で可愛い!!すげえいい匂いした…!!」
2人は彼女の正体をハッキリと推測し、途端に興奮する
「俺、褒められた!! 『骨がある』って!!」
「室長が言ってたんだろ! でもあの声で言われると確かに彼女に褒められた気分になるな……!」
二人は完全に浮足立ち、デスクに手をついてわちゃわちゃと騒ぎ始める。
「マジかよ……。室長、家に帰ったらあんな綺麗な人が待ってんのか? 最高じゃん……俺あの人の後ろにキラキラの花が見えたもん!」
「わかる。あんなの、癒し効果カンストしてるだろ。
そりゃあ室長も鬼みたいに厳しい現場でもガンガン切り込んでいけるよなーー。
家に帰ってあの人に『お疲れ様』って抱きしめられたら一瞬で浄化して、どんな地獄でも頑張れるわ」
「お前、彼女いるだろ」
「いや、いるけどさ! でも羨ましくないか!?」
「……まあ、めちゃくちゃ羨ましいけど」
高木は腕を組み、ドアの方を見つめたあと目を閉じてしみじみと呟いた。
「ていうかさ……ってことはだよ、室長、あんな清楚で高嶺の花の権化みたいな人と、夜はあんなことやこんなことしてるってことだよなぁ……」
「ぶっ! お前バカ、やめろ!」
「いや、だって男なら想像するだろ! 室長、あんな涼しい顔して、あのお嬢様と……うっわ、やべー。全然想像できねぇ。でもめちゃくちゃ羨ましーわ、俺興奮してきた」
「ほう。何が羨ましいんだ?」
「だから、室長があのお嬢様と毎晩――」
同意を求めようと振り返った高木の背筋が、一瞬で凍りついた。
いつの間にか開いていたドアの前に、外出から戻ってきたばかりの黒崎櫂が立っていた。
その端正な顔の口元だけ、笑顔に似た表情をたたえながら、こめかみのあたりに青筋がピキッと浮き出ているのを、高木は見逃さなかった。
背後に、地獄の業火が見える…
「ひっ……!! 室長! お帰りなさいませ!」
「も、戻られてたんですね!!」
直立不動になった部下二人を見据え、櫂は氷点下の声で告げた。
「高木、西村。……お前たちは今日の午後、私と一緒にBプロジェクトの不良債権処理の現場に同行しろ」
「えっ!? あ、あの案件は確か、かなり揉めるだろうからって来週の半ばに……」
「今から行くと言っているんだ。骨のあるお前たちなら、地獄でも頑張れるんだろう?」
「「…………ッ!!」」
絶対零度の笑みを浮かべる上司を前に、若き部下二人は、己の不用意な発言を死ぬほど後悔することになったのだった……
櫂は茉莉の(夜の)姿を想像されるだけでもイヤなんですねえ。
ちなみに誰か西村のことを覚えてますか?探してみたらこの回に出てきました
めちゃチョイ役で。いいんですよ覚えてなくて。私もどこで出てきたか覚えてなかった。
あとどうでもいいけど高木は私の中でメガネをかけています
さて明日から15章。いよいよラストに向かって進み始めている感じです。
最後までどうぞよろしくお願いします🙇🏻♀️それではまた明日!
