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#57『薄明』第10章:道程⑤

前回のお話はこちら



​一月も中旬を過ぎると、街を彩っていた新春の浮かれた空気は影を潜め、都心は低く垂れ込めた冬の雲と、凍てつくような乾いた風に支配されていた。

​西園寺グループ本社、経営戦略室。

分厚い全面ガラスの向こうには、冷たいグレーに染まったビル群がどこまでも続いている。

櫂にとってこの無機質な景色はもはや日常の一部となっていた。

​「失礼します。黒崎室長、今日の郵便物です」

​高木と同期の西村がデスクに数通の封書を置いた。

「ありがとう」

その一番上にあった一通に、一瞬櫂の目が止まる。

​他の白や茶の封筒とは明らかに一線を画す高級紙。

闇を切り取ったような漆黒の封筒。

その中央に、鈍いシャンパンゴールドの箔押しで刻印された文字が、冬の薄光を反射して光っていた。


​『REGALIA』


​「……レガリア…?」

聞き覚えのない社名。

ペーパーナイフを滑らせ、中から現れたカードを取り出す。

指先に伝わる、上質なコットン紙の重みと、活版印刷の深い凹凸。


そこに記された内容を見た瞬間、櫂の手が止まった



【REGALIA Inc. Launch Party


​全てを捨て、個(ゼロ)から始める。

その証を、この日に。


​日時:2月14日(日)18:00


九条稜真】





──それは九条稜真が新しく興したベンチャー企業REGALIAレガリアの設立記念パーティーの招待状だった


(九条……稜真…?!)


櫂の表情が瞬時に凍る

2月14日


……1年前、稜真が茉莉にプロポーズした日だ

​(……わざわざ、この日を選ぶのか……九条)


​招待状を握る指に、力がこもる。

それは単なる新会社設立の報せではない。

一人の男として、奪われたものを取り戻しにいくという、執念が籠もった挑戦状のようだった


そして、そこに添えられた一枚の小さなカードには、見覚えのある軽やかな筆跡でメッセージが記されている。

​『櫂さん、茉莉さん、お久しぶりです!無事に日本に帰国しました。

今、九条代表のもとで、世界を変えるような熱いプロジェクトを準備しています。

設立パーティー、絶対に来てくださいね!

茉莉さんにまたお会いできるのが、本当に楽しみです。

​加納 麗奈』


​「…………」

​櫂の指先が、メッセージカードの端で小さく軋む。

麗奈の屈託のない言葉が、今の櫂には、九条稜真による挑発にしか聞こえなかった。


​『茉莉さんにまたお会いできるのが、楽しみです』


​九条は、麗奈という自分の過去を知る女を懐刀にし、
麗奈を「何も知らない無邪気な駒」として使おうとしているのか、それともただの偶然か……

意図の見えぬ不気味さに櫂の瞳が曇る

​「室長……? 何か、問題でも…?」

​西村の声で我に返り、櫂は感情を削ぎ落とした

​「……いや。ただ、少し面白い招待状だと思っただけだ」

​櫂は黒いカードをデスクに放り出した。


一年前とは違う。今の自分には、彼女の隣に立つ権利も、彼女を守り抜くための力もある。

​2月14日。

雪解けを待たぬ冬の夜に、かつての所有者と、今の守護者が再び相見える。

その幕が、いま静かに上がろうとしていた。




続きはこちら

みんな2月14日のこと覚えてる?
第一章だよ!
読んでない人は読んでね!

一章のあらすじ置いとくね

すみませんよかったら1話から読んでください🫰🏻

第一話だよなつかしいね

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