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#16薄明スピンオフ『九条稜真の恋』最終回

こちらの物語は、先日完結した長編恋愛小説『薄明』の番外編(スピンオフ)ですが本編をお読みになっていない方でも単体でお楽しみいただける内容になっていますので、本編未読の方もぜひ気軽にお読みください。

前回のお話はこちら




薄明スピンオフ 九条稜真の恋
最終話



始業の十五分前、稜真は滑り込むようにしてレガリアのオフィスに入った。

どうにか遅刻せずに済んだようだ。


すると、受付近くで待ち構えていた麗奈が待ってましたとばかりに目を輝かせ近づいて来る。


(来た……)


稜真は一瞬で面倒なことになると直感し、さりげなく逃げようとしたが、逃げ切れるはずがなかった。


「ちょっと! ちょっとちょっと九条さんっっ!! 遅ーーい!!待ってましたよ!!!」

「……なんだよ」


がっしりと腕を掴まれ、逃げ場を失った稜真は「捕まってしまった……」と心の中で軽く絶望した。

「何だよって!しらばっくれないでください! 昨日のことですよ!

 なんで藤江理華さんとお食事なんてしてたんですか!? どういう経緯なんですか!? どこで知り合ったんですか!? あっ!まさかビジネスの話!? やだぁさすが九条さん、休日まで抜かりない! 素晴らしい!ねぇ! 次は私も同行させてください! 私、理華さん推しなんですよ!!!!色々しゃべりたい!!! ねぇねぇねぇいいでしょ九条さんっ!!!!ねえねえねええええー!!!!」


稜真のスーツの袖をぎゅーーっと握りしめ、キャンキャンと小犬のようにまとわりついて離れない麗奈。

そのあまりのやかましさに、稜真はついに耐えかねて叫んでしまった。


「うるさいな! 違うよ!! 

理華さんは……僕の、か…彼女だ!」







────オフィス内の時が止まった。



麗奈が目を見開いたまま固まっている。


自分でも予想外に大きな声が出たことに気づき、

「しまった──」と青ざめたその瞬間




「ええええええええええーーー!!!!!!!!」



麗奈の叫び声がオフィス……いや、フロア全体に激しく響き渡った。


「ばかっっ!!! 声がデカい!!!」


慌てて麗奈の口を塞ぐ稜真だったが遅かった。


デスクでPCを開いていたエンジニアや開発メンバー、社員たちが何事かと一斉にこちらへ視線を向けていた。


「加納、朝からうるせえぞー」

最年長のCTOが奥のデスクから眉をひそめて言う。

だが麗奈は謝るどころか、稜真の手を振り払って大声で衝撃の事実を全員に伝達した。

「みんなっっっ!! 聞いて!!! 九条さんに……九条さんに!!!! 彼女が出来たってぇ!!!!!」

「……!? おいコラッ!!」

稜真が青くなって止めようとした次の瞬間──。



「「「「マジかーーーーーー!!!!!!???」」」」



野太い社員たちの声が揃ってオフィスを揺らした。

「ついに!? ついに代表に彼女が!?」

「稜真さんマジっすか!! や、やりましたねっっ!!」

「ちょっ待っ……涙が!」


ほぼ全員が稜真を取り囲み、怒涛の祝福を嵐のように降らせ、稜真は唖然として口を開けた。


「な……なんだお前ら……」


見ると、本気で目頭を拭っている若手エンジニアまでいる。


「だって代表、俺らみんな、ずっと心配してたんすよ! ふと気づけば、いっつも窓の外見て黄昏たそがれててさぁ!」

「そうそう! 仕事の時はバリバリ格好良くて頼りがいがあるのに、プライベートになると急に影かぶって寂しそうで」

「合コン誘っても、キャバクラ誘っても、大体遠い目で浮かない顔だし」

「元婚約者の茉莉さんが他の男と結婚した時なんか、平静を装いながら仕事してたけど見るからに真っ白な灰になっちゃってて見てらんなかったっす…」
「バカそれは今言うな!」

「やっと女の子と食事行ったかと思えば、後日めちゃくちゃ沈んでるし。
あーまたダメだったかぁ…って、
なあ!」

「そうそうそう!!」


稜真の周りには人山ができ、社員たちが口々に好き勝手なことを言い合っている。


稜真は「自分はそんなにわかりやすかったのか………」と、ただただ面食らうしかなかった。

しかし


(みんな、そんなに僕のことを心配して……)

胸の奥がじんわりと温かくなると同時に、何とも言えない恥ずかしさが込み上げてくる。


「で! で! そんな社長のハートを射止めたのは、どんな女神なんすか!?」

「馴れ初めは?!」

「写真は?!」


勢いづく追求に、稜真は顔を真っ赤にして叫んだ。


「お前ら全員、仕事しろーーーーっっっ!!」



大爆笑が巻き起こるオフィス。


その後、「九条代表の彼女ご降臨(?)記念お祝い」という名目で、終業後の飲み会が令和らしからぬ速さで決定した。月曜日なのに。


無理やり参加させられ、頭を抱える稜真。


けれどその表情には、隠しきれない幸せが滲み出ていた。


ふと、ポケットの中でスマートフォンが短くバイブレーションを響かせた。

画面を見ると、理華からのメッセージ。

それを読んだ稜真の頬が思わず緩む。

彼は顔を上げるとポンと自分の頬を叩いて表情を引き締めた。


「よし、ミーティング始めるぞ!」


九時を少しだけ過ぎてしまったけれど。


稜真は晴れ晴れとした表情で新しい一日をスタートさせた。







九条稜真の恋



読者の皆様
「薄明」、そしてスピンオフ「九条稜真の恋」をここまで読んでくださり、本当に本当にありがとうございました。
(大好きだよ!)


明日はあとがきになります
どうぞお楽しみに



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