#14薄明スピンオフ『九条稜真の恋』
こちらの物語は、先日完結した長編恋愛小説『薄明』の番外編(スピンオフ)ですが本編をお読みになっていない方でも単体でお楽しみいただける内容になっていますので、本編未読の方もぜひ気軽にお読みください。
前回のお話はこちら
薄明スピンオフ 九条稜真の恋
第14話
まだ薄暗い中、理華の語る話を稜真は黙って聞いていた。
「……ごめんなさい。朝からこんな重い話されたら、困りますよね」
理華は申し訳なさそうに苦笑しながら、遠くを見ていた視線をゆっくりと稜真に戻す。
「娼婦の仕事もどこか、…吉田の心の中の本当の孤独を『私が』癒してあげたかった、っていう、……雪辱みたいなものがあったのかもしれません。
……我ながら歪んでます」
「そんな……」
理華の途方もない痛みを思うと、言葉が詰まった。
「でも、だからこそ私、決めてたんです。
もしいつか、次に……本気で好きになれそうな人が現れたら
……今度こそ絶対に、自分の気持ちをごまかしたり、隠したりしないで素直にぶつかろうって。
絶対に自分に嘘はつかないって。
……自己満足っていうか……エゴですね。完全に。
だから、この話をしてあなたに受け止めてもらいたいとか、責任取ってもらいたいとかそんなんじゃないんです。
……ただ私がそうしたかっただけ。」
彼女の瞳には、一切の迷いも計算もなかった。そして稜真を見つめ、頭を下げた。
「……私のリベンジに巻き込んでしまってごめんなさい」
稜真はその言葉を受け、ベッドの上に身体を起こし、彼女の頬にかかる柔らかな髪にそっと触れた。
「そっか…。」
さっきまで心の中に渦巻いていた「大勢の中のひとりなのではないか」という不安は、もうなかった。
その変わり、理華の計り知れない孤独なこれまでに思いを馳せると、どうしようもなく胸が締め付けられた。
「謝る必要はないよ…。
理華さんにとって……、かけがえのない大事な気持ちを打ち明けてくれてありがとう。」
そして優しく続けた
「……君の経験した壮絶な痛みに比べると軽くて不謹慎かもしれないけど、実は昨日、僕も似たようなことを考えていたんだ。もう、一生後悔はしたくないって。」
理華が目を上げる
「…そうなんですか?いつ?」
「美術館で君に最初に会った時」
稜真は座り直して、そっと理華の髪を撫でる
「実はあの時、君のことを思い出していたんだ。そしたら目の前にいるからさ…驚いたよ。
迷惑かもしれないって思ったんだけど、それよりも行動せずにあとから後悔したくなかったんだ。
……僕も自分の至らなさで好きな人の手を離してしまったことがあって…。
あ、彼女は今すごく幸せにしてるから結局はそれで良かったのかもしれないけどね…。
そう思えるまで随分かかってしまった。」
稜真はそこまでひと息に言うと、真剣な顔で姿勢を正した
「君がどれだけの喪失を抱えて生きてきたかを聞いて、正直、僕にその穴を埋められるなんて軽々しいことは言えない」
頷く理華の表情は変わらない
「でも、…君が苦しい時や辛いとき、寄り添うことは出来ると思う。
……というより、今そうしたいと思ってる。」
理華はその言葉を黙って聞いていた
「すべての過去があるから、今の理華さんがいる。
今の理華さんと僕は出会って、今の君に僕は惹かれた。
それから…僕はここ最近ずっと、今度は自分が幸せになる番なんだと思って生きてる。
そのためにずっと藻掻いてた。
…不幸でいるわけにはいかないんだ。これはエゴかもしれない」
少しだけ目を伏せる
「過去は変わらないし……これからどうなるかなんて何も分からないけど…」
稜真は理華の髪に触れていた手をゆっくりと降ろし、ベッドの上に置かれた彼女の手を、両手でそっと包み込んだ。
「今の自分の気持ちに正直になるなら……僕は理華さんと、これからも会いたいし、そばにいたい。
それが過去でも未来でもない、今の僕の全てだ」
理華が息を呑み、ゆっくりと顔を上げる。
稜真はその瞳を静かに受け止めながら微笑んで言った
「だから……、もしよかったら、始めてみない?
ゆっくりでいいから……2人で。
もしかしたらうまくいくかもしれないし…。君となら幸せになれそうな気が、してる。
……巻き込んでるかな?僕の『幸せ計画』に。」
理華の瞳には、カーテンの隙間から差し込む朝の光と、小さな戸惑い、そしてそれ以上の温かな光が宿っていた。
「……いいんですか?
私、結構面倒くさい過去を引きずってますよ」
「僕だって、決して威張れるような過去ばかりじゃないよ。
知ってると思うけど、身内に逮捕者もいるし裁判もまだ終わってない。
……、逆にいいの?」
理華が小さく笑う
「……ふふっ…、びっくりするくらい、そんなことどうでもいいです。」
2人は同時に吹き出した。
理華が可笑しそうに目を細め、ぺこりと頭を下げる。
「よろしくお願いします稜真さん。
……『幸せ計画』、でしたっけ?私も参加させてください。
私ももう、不幸なのは懲り懲りなので」
2人は見つめ合って笑った。
朝の冷たい空気の中で、繋いだ手と手から、互いの体温が静かに伝わっていく。
名前のない夜を越えて、ふたりの「これから」が、静かに始まった瞬間だった。
つづく
次回は明日21時頃更新予定です
傷を抱えた稜真と理華が
自分の幸せのために一歩を踏み出す
がんばれ☺️♡
本編薄明を読んでみたい方はこちら
ほんまに名作やで。
