#82『薄明』14章:挑戦①
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14章【挑戦】①
連休が明けた翌々日の午後。
茉莉はひとり、メールの送信ボタンを押してからの一分一秒を、永遠のように感じながら過ごしていた。
スマートフォンをテーブルの端に伏せて置き、それでも数分おきに画面を裏返しては、何も通知が来ていないことに小さく安堵し、同時にまた絶望する、という矛盾した時間を繰り返している。
(……資料…、見てももらえないかもしれない…。一瞥して、ゴミ箱に捨てられていたらどうしよう)
胃の奥がギュッと握り潰されるように痛み、吐き気が込み上げてくる。
冷たくなった指先をきつく握りしめ、浅くなる呼吸を感じては深呼吸で整えた。
『西園寺の名前を使って遊びをするな』と、容赦なく一刀両断される可能性は十分にある。
仕事を舐めるなと、徹底的に打ちのめされるかもしれない。
(……それでも…)
茉莉は、震える膝を両手で強く抱え込んだ。
もし門前払いされたとしても、この事業は絶対にやる。
たった独りでも、小さなNPOからでも立ち上げる覚悟はもう決まっていた。
ただ、今この瞬間にも、どこかで絶望に震えている子どもたちがいる。
その子たちを一日でも早く、一人でも多くその手を掬い上げるためには、自分一人の力より西園寺の持つ資金力と影響力を利用する方が明らかに強いのだ
そのためなら、父に見下されようとぶつかってみる価値はある。
重苦しい静寂の中、不意に、テーブルの上のスマートフォンがメールの到着を告げるバイブレーションに短く震えた。
ビクッと肩が跳ねる。
恐る恐る手を伸ばし、裏返した画面を見ると、そこには見慣れた名前があった。
西園寺グループ筆頭秘書、佐々木
幼い頃から茉莉が『佐々木のおじちゃん』と呼び、可愛がってもらっていた──秘書の佐々木。
実は茉莉は事前に、西園寺の事業スキームに組み込むためのアドバイスをこっそり佐々木に乞うていた。
しかし今、画面に並ぶ文字は、筆頭秘書としての一通の「通達」だった。
『お嬢様。お送りいただいた資料、社長が目を通されました』
その言葉を見ただけでも息が止まりそうになる。
『明日14時、本社社長室にてお待ちしております。15分だけ、時間を空けられました』
(――15分!)
話を聞いてもらえる。
チャンスを、掴んだのだ。
『なお、黒崎くんも同席させるようにとの仰せです。
お嬢様。社長は、あなたの遊びに付き合うほど暇ではありません。
本気でないのなら、来ない方が身のためです』
突き放すような厳しい言葉。
だが、その後に続く短い追伸に、茉莉は思わず目頭を熱くした。
『追伸
しかしあなたが事前準備で見せたあの覚悟が本物なら、恐れることはありません。全力でぶつかっていきなさい。ご健闘を
佐々木』
茉莉はスマートフォンを胸に強く抱きしめ、深く、深く息を吐き出した。
震えは、いつの間にか止まっていた。
同じ頃、櫂にもその通達は来ていた。
(明日14時……)
自分も同席させるということは、何か自分にも聞きたいことがあるのかもしれない。
しかし何が起こっても、櫂はその場で彼女を援護することは出来ない。
これは彼女自身の戦いだからだ
(頑張ってください…茉莉。)
自分のこと以上に強い緊張を感じながら、櫂はただ、茉莉を信じ、彼女のために祈るのだった。
続きは明日21時頃更新予定です
相変わらず名脇役の佐々木。
ついに明日、父征嗣と茉莉が相まみえる!
お楽しみに…
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