03_小樽港到着~初山別みさき台公園キャンプ場(その3)
Nong Sukjaiの「ピザ屋のバイクでツーリング」 (2002年・夏・北海道)~
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高台の下には温泉(岬センター温泉)があって、歩いてもたかがしれているのだが、車族は温泉に近い駐車場の脇に、多くのテントを張っていた。
いわゆるオートキャンプ族で、テントがでかくて、なにかと便利そうな道具をたくさん持っているのが特徴である。
車だと重さや嵩をほとんど気にすることもないので、望むなら、戸外(いわゆるアウトドア)での快適性を徹底的に追求できるようだ。
道具に安くないお金がかかっていることが一目でわかるし、こうなると、自宅での生活と戸外での生活の境界がなくなっているようでもある。
つまりは自宅の快適性を戸外で再現しているわけだ。
彼らは、ツーリング族とはまた違う雰囲気を醸し出していた。
かくいうぼくは、いったい何者なのであろうか。
真性のツーリング族でもないし、特にアウトドアを楽しんでいるわけでもない。
強いて言うならば、ぼくは単なる旅行者である。
未知の世界をこの目で見たいという知的好奇心で動いているだけである。
だから安全に眠れて疲れがとれれば、寝るところにはこだわらない。
バイクを使っているのは自転車より楽だからで、テントで寝ているのはただ単に宿泊費を浮かせるためである。
日本の場合、宿舎で寝るだけで高いお金を取られるので、自衛手段である。
たとえ素泊まりで一泊2000~3000円であっても、1人で寝るだけなのにと思えば安くはない。
それだけのお金を出したら、いったい何を食べることができるのか、と考えればすぐにわかることだ。
日本もタイのゲストハウスのように1泊100円~500円で充分という世界なら、わざわざテントを持ち運んだ旅行なんかしないのだが。
「大自然と一緒になって、背中で大地を感じながら眠るのってステキですよね~」
テントを持ってうろうろしていると、たまにこんなことを言ってくる人がいるのだが、ぼくはべつに好きこのんで背中で大地を感じているわけではない。
だいたい「大自然」などという言葉を恥ずかしげもなくやすやすと使う人間ほど、自然のことがぜんぜんわかっていないものである。
ぼくに巨額の富があったなら、背中で大地なんか感じることなく、天蓋付きの豪奢なベッドに寝転がって、空気の精のようなやさしい女の子に羽毛布団をそっとかけてもらって寝入るのである。
お金に余裕があっても、貴重なお金をオートキャンプの道具に使うといった中途半端な戸外遊びなど絶対にしない。
たまたま今は収入がほとんどない大学院生の身分なので、しかたなくこんな旅をしているのである。

「あのー、文京区の方なのですか?」 ジンギスカンを食べて後かたづけなどをしていると、若い男の声がした。
ここ、上のテントサイトは、下のオートキャンプ場とうってかわり、誰もテントを張っていなくてがらんとしていた。
その広い空間の中に、ぼくの他にもうひとり、ツーリング用テントを張っている人がいたのである。
そのテントの脇には自転車を寝かせて置いてあった。
暗い中で、彼の黒い顔が浮かんでいた。
細身で華奢な体つきで人なつっこいしゃべり方をするので、ぼくは相手がタイ人ではないかと疑った。
「ぼくも文京区です。小石川です。中央大学の学生です。えへへ。」と言った。
彼はバイクのナンバープレートを見て話しかけてきたのだ。
彼は文京区を出てから、大間崎-函館の津軽海峡を渡るフェリーに乗った以外、自走で十和田湖などに立ち寄りつつ半月かけて、ついにここ初山別まで走り通して来たのである。
華奢な身体の割には、すごいパワーの持ち主である。そのパワーの源は何なのか。きっとすごいものを食べているのだろう、と問うと、
「へ? ぼくの食事はですねえ。いま食べている最中なのですが・・・これです」
彼は一斤の食パンの袋をぶら下げて、囓りかけのパンを手に持っていた。
「これだけで生きているのです。あと牛乳と」
これだけを食べながら文京区から自転車で半月かけてここまでやって来た?
信じられない。
彼の口の中はきっと口内炎でただれているはずだ。
さもなくば彼は妖怪だ。
「でもですねえ。きのうの晩は、500円でたらふく喰いました。ジンギスカンやら寿司やら・・・そういえばビールも飲み放題でした。あはは」
ライダーまたは徒歩旅行者向けに、寝場所と安い食事を提供する宿があるのだそうだ。

ぼくはこれで北海道を訪れるのは10回目以上になるが、いままでは周遊券(または青春18切符)と公共交通と徒歩の旅行であった。
観光客の少ない冬や春先などの季節がほとんどだったので、宿は民宿や安いビジネス旅館が多かった。
ゆえに、それなりのお金がかかっていた。
ユースホステルにも泊まったが、そこで行われる旅行者同士の交流には、あまり興味を持たなかった。
もう10年以上も前のことである(最近はユースホステルの雰囲気も変わっているらしいが)。
その頃ぼくは旅行者同士よりも、現地人との交流の方を望んでいた。

その頃からライダーの存在は知っていたが、自分とは接点がなかったし、それよりもバイク=暴走族の偏見があったので、バイクに乗るのはあまりいい人種ではないとさえ思っていた。
しかるに今自分は端くれながらライダーをやりつつある。
自分から新しい世界に飛び込むと、自然と、自転車旅行の食パン兄ちゃんなんかと知り合ったりするわけである。
旅館やビジネスホテルに泊まっていてはこういう人とはなかなか会えない。
こういう世界もまたたのしい。
※「食パン兄ちゃん」よ、どこかでこの文章をお読みでしたら、ぜひぼくにご一報ください。
* * *
朝起きると、食パン兄ちゃんはすでに出発した後だった。
兄ちゃんは、今夜は手塩のキャンプ場と言っていた。
ぼくの今日の目的地は稚内である。
手塩は直線距離で約40km先だが、稚内は約100km。
これが自転車と原付バイクの走行距離の違いであろう。
もっとも自動二輪だったらもっと長いだろうが。
上陸2日目に早々と日本最北端の市、稚内に着く予定だが、きのうの小樽からの180kmよりずいぶん近いしのんびり走れそうだ。
途中で自転車兄ちゃんを追い越すことであろう。
食パン兄ちゃん、いったいどんな勇姿で自転車を漕いでいるのか、ぜひ見てみたいものだ。
次は 04_初山別みさき台公園キャンプ場~稚内の小屋(その1) に続く。
