02_小樽港到着~初山別みさき台公園キャンプ場(その2)
Nong Sukjaiの「ピザ屋のバイクでツーリング」 (2002年・夏・北海道)~
この前の話

ひたすら左に日本海を眺めながら、バイクは北上した。
幸い雨はあがった。しかし厚い雲があって、いつまた降り出すかわからない。
バイクは49ccの原付なので、そんなにスピードは出ない。
後ろから大型トラックなどが高速で追いついてくることがあるが、そんなとき、ぼくは慌てずに少しでも路肩のあいたところを見つけて、そこに一旦停車させて、後ろのトラックをやり過ごした。
このことは、本州を走っているときに身につけたことだ。
あたかも、本線のひなびた駅で、鈍行列車が特急列車を先に通すようなものである。
そこにはゆったりした時間が流れ、情緒すらある。
小さな発見をしたりすることだってある。
こういう時間を大切にしたい。

このバイク、ホンダのジャイロキャノピーを運転していると、たかが50kmくらいしか出ないバイクなのに、あたかも車を運転しているような錯覚に陥ることがある。
それだけバイクが安定している証左であろうが、このことは、人間に飼われているうちに自分が人間であると誤解してしまうイヌのように愚かで危険なことなのである。
自分は車ではない。
むしろ、自転車なのである。
車と勝負しようなどとはゆめゆめ思わぬことである。
車より優越感に浸れる瞬間はただ一つ。渋滞の時に、車の列の脇をスルスルと追い越して行けることだけである。
自分は自転車なのだ・・・自分は自転車なのだ・・・
そう思っていると、座りながらにして右手首を少しひねっただけで自動的に走ってくれるこの乗り物が、たいそうありがたく感じてくるのである。
バイクでツーリングをはじめて、ツーリング者同士の習慣のようなものに気づいたりした。
それは、対向からやって来るさすらいのライダーとすれ違いざま、お互いに挨拶することである。
軽く会釈をしたり、片手をあげたり、また、ピースサインであったりするのだが、そんな習慣が、ツーリング車同士のお互いの楽しみや苦労を分かち合っているのだぞ、という連帯感のようなものを生んで、とてもいい習慣のように思えた。
だが、我がジャイロキャノピーの場合はどうだろう。
確かに向こうから走ってくるライダーの兄ちゃんは、じっとこちらを見ている。
すれ違うときも、確かにこちらを見ている。
ぼくはその兄ちゃんに、手をあげるか、ピースサインをして見せる。
だが、兄ちゃんは、ただこちらを見ているだけで、何もしない。
返事くらいしてくれても良さそうなものを。
全員無愛想というわけではない。
3人に1人くらいの割で、気持ちよく返事を返してくれるのであるが。 たぶん、兄ちゃんの目には、ぼくのバイクなど、ツーリングをしているというよりも、ピザの配達をしているように写るのであろう。
「ああ、北海道の大平原にも、こうしてピザを運ぶ人もいるのだなあ。それにしても、北海道では30分以内に配達しないといけないということはないんだろうなあ・・・」
などということを考えているうちにすれ違ってしまって、会釈もピースサインも何もないのである。
そのうち、めんどくさいので、ぼくからは挨拶をしないことに決めた。
自分は自転車なのだから・・・ツーリングではなくてピザの宅配なのだから・・・
* * *

北海道上陸の初日、走りに走って180km。暮れなずむ初山別村に入った。
GPSの指示する矢印が左90度を指したので、ぼくは国道を離れて、日本海側に折れた。
目的地までの距離が1キロ未満になり、m表示になり、どんどん目的地が近づいてきた。
そして、GPSはとうとう目的地に到着したことを告げた。
「みさき台公園キャンプ場」
ここは無料のキャンプ場である。
すぐそばに温泉もあるので、今日はここを目的地にしていたのである。
初日にしてはよく走った。日の出前から走り出して、日の入り後に無事目的地に到着したわけだ。
疲れたが、充実感がある。
あいかわらず黒い雲があって、のっぺりした見晴らしのいい大地なので、風もきつい。
夜中に雨が降り出すかもしれないので、ぼくは今は閉まっている小さな売店の陰の、木の下にテントを張った。

薄暗い公園で、唯一煌々と電気をつけているのは、レストラン兼売店であった。
レストランの注文は午後6時半で終了とのことであった。
迷ったが、ぼくは自炊をすることにした。
売店のおばちゃんに食料品店を教えてもらった。
2キロほどもある距離であったが、こんなときにもバイクはありがたい。
ただ、荷物がすでに満載なので、これ以上の荷物は足下にくくりつけて走ることになる。
行き交う車もなく、ふらふら走ってても交通事故に遭うことはなさそうだが、自分で転んでしまわないように気をつけないといけない。
そういえば研究室の後輩で観葉植物好きなヤツが、原チャリで出かけた出先で一目惚れして予定外に購入してしまった巨大な植物を、股の間に挟んでゆらゆらと危険いっぱいに十数キロ離れた自宅まで運んだという話を思い出した。
ヤツと比べると、今日のぼくなんか、ネギと冷凍ジンギスカンと牛乳とまんじゅうだけを股に挟んでたったの2km走るだけなので、かわいいものである。
暗くなると気温が下がり、寒くなった。
ちょっと危ないが、テントの中でミニコンロをつかって、ご飯をお湯で温め、ジンギスカンを炒めて夕食にした。
もちろん換気口は空けてあるが、こうすると暖をとれて、実に快適である。
テントの中は、北海道らしく、マトンのにおいが充満していた。
次は 03_小樽港到着~初山別みさき台公園キャンプ場(その3) に続く。
