そば屋の餅 獅子宿燻亭 山形県長井市 和菓子なスクチャイ179 2025.12.23
和菓子なスクチャイ179 山形県 > 長井市
※くまの身長は7.5cm。大きさの参考に。
そば屋の餅 獅子宿燻亭 山形県長井市


1.長井市の古民家蕎麦屋さん
長井市の山手にある昼しか営業していない蕎麦屋さんに行ってみた。
そこでは手打ち蕎麦だけでなく自家製餅米で搗いた餅も食べられるらしいのだ。
「蕎麦と餅」というのは実に甘美な響きではないか。
2.到着
最上川を渡って勾配を登り、いくつかの辻を曲がると「そば」の看板がある古民家に到着した。
見るからに一般の民家の雰囲気であった。
3.注文

吾輩はそこで提供しているすべて7種類の餅が食べたかったので、餅5種がついた「餅そば膳」に、それに付いていない2種の餅(おろしと雑煮餅)を単品で頼んだ。
女将さんは「おやおや、食べられますかね〜。単品1つに餅が3つ入るのですよ〜」と言った。
「なあに、吾輩は食べられます!」
初めて来た吾輩とっては期待の蕎麦と一通り全部の種類の餅を一気に食べる気概になっていたのである。
4.配膳








「餅そば膳」に付いてくる5種の餅の数は、それぞれの味ごとに1個ずつだ。
それにざるそば1人前と2つの小鉢が付いてくる。
それだけだと明らかに少ない量なので吾輩は最初から2つの単品を追加したのだ。
蕎麦を食べ始めてから追加しても良かったが、まあ一般的なそばの量やセットメニューは実物を見なくても大体予想がついていて、吾輩には「圧倒的に少ない!」のであった。
そして予想が当たり「最初から追加を頼んでおいて良かったね」となった。
5.餅に集中
蕎麦は実に美味しかったが、この項は和菓子主体に書かねばならず、餅に集中する。
記事のテーマが「和菓子」と言うからにはご飯(食事)であってはならず、今回出てきた餅での和菓子系統の餅は「小豆、ごま、じんだん(ずんだ)、くるみ」の4種だ。
残りの餅は「雑煮、納豆、おろし(大根)」の3種でこちらはお菓子やおやつなどの「和菓子」ではなくあきらかに「食事用」と見做されれるので割愛だ。
6.食べた
餅はとても柔らかくて伸びるのだった。
女将さんが言っていたが、毎日搗き立ての餅なのだ。
搗き立てというのはこれほどにまで柔らかいものなのだ。
搗き立てだけではなく、丹精込めて育て収穫した自家製餅米なのだ。
餅米の品質も良いのだ。
吾輩、餅が好きなので自宅では年中切り餅を買い置きしてあって、それを使って色々な味付けで日常に餅を食べているが、やはり今回のような良質米の搗き立て餅には敵わない。
ただ、いかに美味しいからと言っても自宅では少量だけ手間暇かけて搗くわけにはいかず、食べられる量も限られているので自ずと保存に適した切り餅を再生して妥協しつつ普段食べているのだ。
美味しい搗き立ての餅なんて餅屋さんに来て食べるしかないし、それが一番賢い食べ方なのだ。
餅はもともと「ハレ」の食べ物なので日常食べるなどと思うものではないとお叱りを受けるかもしれないが、食べ物一切合切が贅沢になった昨今では、切り餅を始めとして餅を食べようと思ったら、特に贅沢をしている意識もなく割と簡単に手に入れて調理して食べることが出来る。
しかしだ。
問題は、果たして本当に美味しい搗き立て餅を我々は普段望めば食べることができるかどうか、そして、そんな餅を出してくれる餅屋さんが身近にあるかどうかだ。
今時、我々の周辺でそのような理想的な餅屋さんはなかなかあるものではない。
ここ(長井市)とて吾輩住む場所からは遠いのだ。
近所にあれば吾輩は毎日でも通う可能性がある。
だってここまで高品質な餅が7種類の食べ方で、餅3個入りの単品が税込450円だ。
蕎麦と一緒に注文すると単品が350円にマケてくれる。
すなわち一食1,000円から2,000円ぐらいの予算があれば餅だけに集中して食べてもいいし、または蕎麦と一緒でもいいので、美味しいお餅でお腹いっぱいになって大満足することができるのである。
自分で餅米を育てて収穫して精米して蒸して搗いて味付けして・・・という、餅を食べるまでの一連の作業量を思い浮かべると、特にここ獅子宿燻亭では特にありがたいほどに良心的価格なのだ。
もう一度言う。1,000円から2,000円ほどのお金を出せば、おいしい良質の餅をお腹いっぱい食べさせてくれるのだ。
これは正直言って破格値ではないだろうか?
一般的に餅は高いものだが、背後に隠れている作業の多さと時間のかけ方を考えれば誰もが納得するだろう。
ああ、いい店を見つけてしまった!
いつでも食べに来たい!毎週来たい!毎日でも来たい!明日も来るか!?
7.黒獅子


ところでその餅米を育てたり蕎麦を打ったりしているここのご主人は、長井市の伝統芸能である黒獅子(くろじし)を彫って作る伝統工芸職人さんなのである。
屋内の至る所に大小の黒獅子やお面などの一刀彫が置かれてあって、博物館さながらなのだ。
山形県長井市の「黒獅子」はこの地域に数百年伝わる非常に独特で迫力のある伝統芸能だ。
一般的な獅子舞(緑色の唐草模様の布を被るもの)とは見た目も動きも全く異なり、初めて見る人はその異形さと力強さに圧倒されるとのことだ。
女将さんが教えてくれた「ながい黒獅子まつり」の予定日を、来れるかどうかはわからないものの、吾輩はカレンダーに記入した。
まつりは毎年5月下旬(最近は5月の第3または第4土曜日)とのことだ。
漆黒の獅子頭はその名の通り顔は真っ黒で、大きな鼻、カッと見開いた目、そして「百足(むかで)獅子」とも呼ばれる長く伸びた黒い「幕」が特徴でだ。
「幕」とは、獅子頭の後ろに続く黒い布のことで、その中には数人(多い時は10人以上)の若者が入り獅子の体を形成する。
「幕」の中の人間が波打つように動き、巨大な生き物が這うような力強くも滑らかな動きを見せる。
祭りの日、黒獅子は神社の神様を先導し街中の家々や商店を訪れ、家の玄関から入り奥まで進んで「邪気を払う」お清めを行う。
その時、獅子を誘導し時には力ずくで押しとどめる「警固(けご)」と呼ばれる役職との力比べも見どころの一つなのだそうだ。
まつりは長井市を流れる「野川」の水神信仰と深く結びついており、五穀豊穣や家内安全を願って舞うのである。
長井市内には約40もの神社があり、それぞれが少しずつ顔つきや流儀の異なる「黒獅子」を持っている。
地元の人々は自分の地域の獅子に強い誇りを持っているのだ。
8.白山堂芳賀の「黒獅子最中」
先の「赤飯まんじゅう」の記事に書いた白山堂芳賀にはこの黒獅子の顔をそのまま再現した「黒獅子最中」があるとのことだ。
見た目は少し怖いが中には美味しい餡が詰まっていて長井土産として非常に人気があるとのことだ。
5月のまつりの時に「獅子宿燻亭」のご主人が彫った黒獅子が舞う姿を是非とも目前で見てみたいものだと、吾輩は自分のカレンダーにしっかりと記入したのだ。
(おわり)
