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聖書と古事記が、同じ脳から出てきた

聖書と古事記には、不思議なほど似た話が出てくる。混沌から世界が始まる、楽園から追放される、兄弟が殺し合う。書かれた時代も場所もまったく違うのに、なぜか同じ部品でできている。「太古に交流があったのでは」と語られがちなこの謎を、別の角度から見直してみる。

似ている話を、まず並べてみる

これ、似すぎちゃうか。

聖書と古事記、
書かれた場所も時代もぜんぜん違うのに、
読み比べてみたら、
「あれ、この展開さっきも見たな」
の連続やねん。

まず、世界は混沌から始まる。
そこから、上と下が分かれる。
神が世界を作る。
最初の男女が、楽園で暮らす。
何かを破ってしまって、追い出される。
兄弟が、争い合う。

聖書のアダムとイブにあたるのが、
古事記ではイザナギとイザナミ。
最初の男女が、
何かを間違えて、世界に死を持ち込む。

兄弟が殺し合うカインとアベルは、
古事記では一対一の対応こそないものの、
ヤマトタケルが兄を殺める話や、
神々が国を譲るかどうかで張り合う場面に、
似た緊張感が漂っている。

書かれた時代は、
聖書のほうが千年以上古い。
場所は、中東と日本。
文字も、文化も、気候もまるで違う。

それなのに、なぜか部品が揃っている。

「太古に交流があった」という、よくある答え

この共通点を、
昔から人は説明しようとしてきた。

いちばん有名なのが、
「日ユ同祖論」と呼ばれるやつだ。
古代イスラエルの人々が、
シルクロードを渡って日本に来た。
だから古事記にも聖書の話が入っている。

ロマンがある。
鳥肌が立つ話だ。

ただ、考古学の証拠は、
今のところほとんど見つかっていない。
DNA研究でも、
日本人と古代イスラエル人の系統は別だと出ている。

それでもこの説が消えない理由は、
たぶん「似ているなら繋がっているはずだ」
という直感が強すぎるからだと思う。

人間は、
似ているものを見ると、
すぐに線で結びたくなる。

なぜ似ているのか、別の答え

ここで視点を変えてみる。

「文化が伝わったから似ている」
ではなく、
「人間の脳が、似た物語を作るようにできている」
としたら、どうだろうか。

20世紀の人類学者レヴィ=ストロースは、
世界中の神話を集めて分析した。
そして気づいた。
神話は、必ず「対立する二つのもの」で動く。

光と闇。
生と死。
天と地。
男と女。
秩序と混沌。

人間の脳は、
世界をそうやって整理する。
だから、どこの民族が物語を作っても、
同じ部品で同じ構造を組み立ててしまう。

ユングはこれを、
「集合的無意識」と呼んだ。
人類が共通して持っている、
物語の鋳型。

つまり、聖書と古事記が似ているのは、
誰かが旅をして伝えたからではなくて、
人間の脳に、同じ物語を作る装置が入っているから
かもしれない。

「脳の装置」という、もうひとつのロマン

この話、最初に聞くと、
ちょっと寂しく感じるかもしれない。

「シルクロードを越えてきたユダヤ人」
というロマンが消えて、
「脳の構造です」と言われると、
種明かしをされた気分になる。

でも、よく考えると、
こっちのほうがすごい話なんじゃないか。

中東の砂漠で、
誰かが羊飼いをしながら語った物語と、
日本の島で、
誰かが稲を育てながら伝えた物語が、
同じ部品でできている。

会ったこともない人たちが、
何千年も離れて、
同じ夢を見ていた。

そして、
この「物語の鋳型」に気づくと、
スター・ウォーズの主人公も、
ジブリの少女たちも、
ドラゴンクエストの勇者も、
だいたい同じ道を歩いていることが見えてくる。

聖書も古事記もアニメも、
同じ脳から出てきた、
人間という生き物の癖の記録なのかもしれん。

データで見る「神話の共通構造」

・ジョーゼフ・キャンベルが分析した世界各地の神話に共通する「英雄の旅」の段階数: 17段階(出発・通過儀礼・帰還)(Joseph Campbell『千の顔をもつ英雄』1949
・世界の創世神話に登場する「混沌から秩序」のパターンの普遍性: 主要な神話伝統のほぼ全てで確認(ブリタニカ百科事典 Creation Myth
・日本大学大学院紀要『聖書と古事記の創世神話』(松本敬子, 2007)が指摘する両者の構造的類似点の数: 8項目(日本大学大学院総合社会情報研究科紀要 No.8
・古事記の成立年: 712年(和銅5年)/旧約聖書の最古層の成立: 紀元前10世紀ごろ(差約1700年)(國學院大學 古事記学センターBritannica Hebrew Bible

FAQ

Q. 古事記は本当に聖書を参考にして書かれたのですか

A. 直接的な証拠は見つかっていません。古事記が編纂された8世紀の日本に旧約聖書のテキストが伝わっていたという史料的裏付けは現時点でゼロです。似ているのは、人間の物語生成の構造が共通しているから、というのが現代の比較神話学の主流の見解です。

Q. 「日ユ同祖論」はトンデモ説なのですか

A. 学術的には支持されていませんが、「面白い仮説」として読み物的には根強い人気があります。ただし、この説に依存しなくても両者の共通点は説明できる、というのが本記事の立場です。

Q. もっと古事記の話を知りたいのですが、どこから入ればいいですか

A. 池澤夏樹訳の『古事記』(河出書房新社)が、文学として読みやすく入門に向いています。また、神話の「構造」に興味があるならジョーゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』が古典として有名です。

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#古事記 #聖書 #神話 #比較神話学 #読書

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