天然と養殖、なぜ魚だけ天然が偉いのか
この記事は、「天然もの信仰」について書いたものです。
近大のノドグロ完全養殖成功をきっかけに、
なぜ魚だけ天然が偉いのかを考えます。
スーパーの鮮魚コーナーで、
ときどき目にする2つの札がある。
「天然」と「養殖」。
同じ魚なのに、
天然のほうが値段が高い。
それを当たり前だと思っていた。
でも、ふと立ち止まる。
キャベツに「天然」って書いてあったら、
たぶん買わない。
牛肉が「野生」だったら、
ちょっと怖い。
なんで魚だけ、
「天然」が偉いんやろ。
なぜ「天然もの」は高く売れるのか
2026年2月、近畿大学が
ノドグロ(アカムツ)の完全養殖に
世界で初めて成功した。
「白身のトロ」と呼ばれる高級魚を、
卵から育てた親魚の卵で、
もう一度育てることができるようになった。
研究開始から約10年。
約36万個の卵から人工ふ化に成功し、
7,000尾以上の稚魚が育っている。
3年後には外食向けの販売を目指すという。
近大といえば、マグロの完全養殖で
一躍有名になった大学だ。
「近大マグロ」は今やブランドになっている。
でも、こんな声も聞こえてくる。
「やっぱり天然のほうが
うまいに決まってる」
本当にそうだろうか。
野菜も肉も「養殖」なのに、なぜ気にならないのか
考えてみれば、
私たちが食べているものの大半は
「養殖」だ。
米は水田で育てる。
キャベツは畑で育てる。
牛も豚も鶏も、
すべて人間が管理して育てている。
それを「偽物」とは言わない。
むしろ、
品種改良を重ねた農作物は
「おいしくなった」と喜ばれる。
シャインマスカットは
人間が作った品種だけど、
「天然のブドウのほうが偉い」とは
誰も言わない。
なのに、魚だけは違う。
「天然」と聞くと、
なんとなく「本物」に思えてしまう。
この感覚はどこから来たのか。
「天然=本物」は、いつから始まったのか
寿司の世界では長い間、
天然ものが最上とされてきた。
しかし実際には、
ブリの養殖ものは
卸売市場で天然より高値がつくことがある。
脂の乗りが安定していて、
いつ食べても同じ品質が保たれるからだ。
天然のブリは、
季節によって味が大きく変わる。
痩せている時期に当たれば、
養殖のほうがずっとうまい。
つまり、
「天然のほうがうまい」は
事実ではなく、印象だった。
「天然」という言葉に、
「自然の恵み」「人の手が入っていない」
という物語が載っている。
その物語を食べていたのだ。
ノドグロの養殖が実用化されれば、
「白身のトロ」が
手の届く価格になる日が来る。
それは「安くなった」のではなく、
「届く範囲が広がった」ということだ。
近大マグロがそうだったように。
「天然もの信仰」の賞味期限は、
もう近づいている。
スーパーで「天然」の札を見たとき、
それが「品質の証明」なのか
「物語のラベル」なのか。
いっぺん、立ち止まってみてもええんちゃうかな。
この記事を読んだ人がよく考えること
Q. 養殖の魚は安全なのか?
A. 近年の養殖魚は飼料や飼育環境が管理されており、むしろ天然魚より安全性が高い場合もあります。近畿大学の研究では、飼育方法・飼料・病気対策の技術開発が進められています。
Q. それでも天然のほうがおいしいのでは?
A. 魚種や時期によります。養殖ブリは脂の乗りが安定しており、天然より高値がつくこともあります。「天然=うまい」は一概には言えません。
Q. 「本物」とは結局何なのか?
A. 食べ物の「本物」は、育ち方ではなく味と品質で決まるものだと思います。シャインマスカットが人工品種でも「本物のおいしさ」であるように。以前書いた「AIはシェフを超えるのか」でも、「おいしさとは何か」を考えました。
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