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⑦誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”

排除者は、感情を持たない


空気が、変わった。

風が止んだわけじゃない。
音が消えたわけでもない。

ただ、
世界が一段、冷えた。

さっきまで聞こえていた人の声が、
遠くに押しやられたように感じる。

(……来た)

そう思った瞬間、
前方の空間が、静かに歪んだ。

音はない。
光も派手じゃない。

ただ、
“そこにあるはずのもの”が、
ずれていく感覚。

「……下がれ、カイ」

レイヴァが、低く言った。

翼の奥で、
魔力が静かにうねるのが分かる。

「これは……」

「世界の犬だ」

犬、という言葉は乱暴だったけど、
妙にしっくりきた。

空間の歪みが収束し、
三人の人影が現れる。

全員、同じ装束。
色も、形も、装飾もない。

顔には、表情がなかった。

「……人だ」

僕がそう言うと、
レイヴァは小さく首を振った。

「違う」

「人の形をした“機能”だ」



一人が、前に出る。

動きは、無駄がなさすぎて気味が悪い。
呼吸すら、計算されているみたいだ。

「確認」

淡々とした声。

「未登録個体・コード未付与」

視線が、僕に向く。

「対象:カイ」

次に、レイヴァを見る。

「随伴個体:高危険度」

「世界安定値に、著しい誤差を確認」

……誤差。

人を、
誤差と呼ぶ。

「……ねぇ」

気づいたら、
僕は口を開いていた。

「君たち、
 誰かを守ってるつもり?」

三人のうち、
誰一人、表情を変えない。

「質問に意味はない」

「我々は、世界の安定を維持する」

「誤差は、修正対象」

レイヴァが、
一歩前に出た。

「修正とは、
 随分と都合の良い言葉だな」

「我を再び封じるか?」

「それとも、
 この小僧を消すか?」

排除者の視線が、
一斉に僕へ向く。

「優先度:カイ」

「理由:観測不能」

「成長上限:未定義」

「世界補正、適用不可」

……なるほど。

「僕が、
 “想定外”ってことか」

「肯定」

即答だった。



胸の奥が、
じわっと冷たくなる。

(……ああ)

(こっちの世界でも、同じか)

理解できないものは、
排除する。

それが、
どの世界でも変わらない理屈。

拳を、
無意識に握る。

右拳の紋章が、
わずかに熱を帯びた。

「……レイヴァ」

小さく呼ぶ。

「分かっている」

彼女の声は、落ち着いていた。

「恐怖を見せるな」

「こいつらは、
 感情を測らん」

「迷いも、慈悲も、
 ここにはない」

排除者の一人が、
腕を上げる。

魔力が、
淡く集まっていく。

派手じゃない。
殺気も、ほとんどない。

それが、
逆に怖かった。

「排除、開始」

その言葉と同時に、
世界が――動いた。



攻撃は、
“効率的”だった。

一撃で終わらせるための角度。
逃げ道を塞ぐ配置。

(……本気だ)

レイヴァが、
僕の前に立つ。

「動くな」

翼が、
一瞬だけ広がる。

だが、
彼女は攻撃しない。

(……?)

「我が出れば、
 世界は“魔王復活”と判断する」

「そうなれば、
 街ごと消されかねん」

……そんな選択肢、
あるのか。

「じゃあ……」

「お前だ、カイ」

レイヴァは、
僕を振り返る。

「逃げるな」

「耐えるな」

「選べ」

……選ぶ。

昔なら、
耐えていた。

黙って、
やり過ごそうとしていた。

でも。

僕は、
一度死んだ。

それでも、
また選ぶ機会をもらった。

だったら。

一歩、前に出る。

排除者の視線が、
一斉に集まる。

「対象、行動開始を確認」

「脅威レベル、再計測」

「……遅いよ」

自分でも驚くほど、
声が落ち着いていた。

「もう、
 “何もしない”は選ばない」

魔力が、
身体の奥で、静かに目を覚ます。

(……これが)

(上限なし、ってことか)



世界は、
僕を消そうとしている。

でも。

僕は、
ここに立っている。

レイヴァと一緒に。



読者のみなさまへ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

今回は
⑦ 世界の排除者が姿を現す回でした。

もし
「ここからどうなるのか気になる」
「カイの選択を見届けたい」
と思っていただけたら、
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