空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで㉛
第三十一章
“世界を壊した王”
終末の神が、
逃げた。
それは。
ありえない光景だった。
世界を喰らい。
神々を殺し。
数え切れない文明を滅ぼしてきた、
“向こう側の神”。
その存在が今。
黒い外套の“怪物”を見た瞬間、
本能的に後退していた。
空そのものが、
歪んでいる。
終末本体が、
空間を引き裂きながら逃げようとしていた。
だが。
黒髪の存在は、
静かに空を見上げるだけ。
焦りも。
怒りもない。
ただ。
酷く静かだった。
その姿が、
逆に恐ろしい。
兵士達は、
誰一人として動けなかった。
理解できない。
本能だけが、
叫んでいる。
“アレはダメだ”と。
ルミアの唇が震える。
「……虚王」
空気が凍る。
レインが、
ゆっくり振り返る。
「……知ってるのか」
ルミアは答えない。
いや。
答えられなかった。
《叡智の書グノーシス》が、
完全に閉じている。
逃げている。
叡智そのものが、
情報を拒絶していた。
代わりに。
エルシアが、
苦しそうに口を開く。
「神代最後の王」
「……世界を壊した人」
その言葉に。
レインの胸が、
激しく軋む。
記憶が流れ込む。
また。
崩壊。
絶望。
そして。
最後の玉座。
そこへ座っていたのは。
“虚王”。
空席の王ですら、
封印した怪物。
いや。
違う。
封印したかったのは。
“自分自身”。
レインの呼吸が乱れる。
虚王は、
静かにレインを見る。
紫の瞳。
同じ色。
同じ目。
まるで。
未来のレインを、
見ているみたいだった。
虚王が、
小さく笑う。
寂しそうに。
「……やっぱり」
「お前は優しいな」
その瞬間。
終末の神が、
巨大な咆哮を上げた。
──ギャァァァァァァァ!!!!
空間崩壊。
終末本体が、
完全顕現を始める。
黒い肉塊。
無数の目。
無数の口。
喰われた世界達の悲鳴。
それら全てが、
空を埋め尽くしていく。
兵士達が絶望する。
「終わりだ……」
「こんなの……」
「勝てる訳……」
だが。
虚王は、
ゆっくり右手を上げた。
瞬間。
世界が、
静止する。
──ピタッ
終末本体。
白い“手”。
崩壊していた空間。
全部。
止まった。
終末の神が、
震えている。
ありえない。
神が。
“時間ごと固定”されている。
フェルグラードが、
乾いた笑いを漏らした。
「……ハハ」
「相変わらずバグってんな」
ゼルヴァも、
苦笑する。
「だから嫌なんだよコイツ」
ノクスは、
静かに目を閉じていた。
懐かしそうに。
悲しそうに。
虚王は、
終末本体を見上げる。
その表情は。
怒っている訳じゃない。
憎んでいる訳でもない。
ただ。
疲れていた。
何千年も、
独りで戦ってきたみたいに。
そして。
虚王は。
静かに、
終末へ向けて手を伸ばした。
その瞬間。
終末本体が、
絶叫した。
──ギャァァァァァァァァァ!!!!
逃げようとしている。
だが。
逃げられない。
空間。
時間。
存在。
全部、
虚王が握っていた。
兵士達は、
ただ震えていた。
理解してしまったから。
この存在こそ。
“本当の終末”なのだと。

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