空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで㉚
第三十章
“封印席の怪物”
──ゴゴゴゴゴゴ……
黒き玉座。
その最奥。
今まで誰にも触れられなかった、
“封印席”。
そこから、
黒い霧が漏れ始めていた。
紫雷。
空間歪曲。
空気そのものが、
悲鳴を上げている。
終末の神ですら、
動きを止めた。
巨大な紫眼が、
わずかに揺れる。
──ギ……?
恐怖。
ありえない。
“向こう側の神”が、
怯えていた。
ルミアが震える。
《叡智の書グノーシス》が、
勝手にページを閉じ始める。
まるで。
“見てはいけない”と、
本そのものが拒絶しているみたいだった。
「うそ……」
「あの席、まだ封印されてたの……?」
エルシアの顔色が、
完全に消える。
ネメシスを握る手が、
震えていた。
ノクスも、
珍しく瞳を細めている。
フェルグラードが、
低く吐き捨てた。
「……冗談だろ」
ゼルヴァですら、
笑っていない。
銀髪が揺れる。
黄金と深紅の瞳が、
封印席を睨んでいた。
レインだけが、
静かに玉座を見つめている。
胸が痛い。
知っている。
この席を。
この“怪物”を。
記憶の奥底。
神代戦争。
最後の最後。
王ですら、
封印するしかなかった存在。
その時。
封印席へ、
文字が浮かび始める。
──ゴゴゴゴゴ……
古代文字。
神代術式。
そして。
ゆっくり。
名前が刻まれていく。
《■■■■》
文字が、
認識できない。
見た瞬間、
脳が拒絶する。
兵士達が、
次々と倒れていく。
「ぎ、ぁ……」
「頭が……!」
存在情報そのものが、
禁忌。
その時だった。
封印席から、
“手”が伸びた。
真っ黒。
影みたいな腕。
だが。
その周囲だけ、
空間が消えていた。
触れている訳じゃない。
“存在しているだけ”で、
世界が壊れている。
終末の神が、
絶叫する。
──ギャァァァァァァァァ!!!!
巨大な終末本体が、
初めて後退した。
空を覆う肉塊が、
明確に恐怖している。
兵士達は、
理解できなかった。
終末が。
世界を喰う神が。
怯えている。
その理由を。
次の瞬間。
封印席の空間が、
完全に裂けた。
──バキィィィィィン!!!!
黒い霧。
紫雷。
そして。
“それ”は現れた。
誰よりも小さい。
誰よりも静か。
黒い外套。
長い黒髪。
紫の瞳。
年齢すら分からない、
中性的な存在。
だが。
現れた瞬間。
世界中の光が、
消えた。
──ゾワッ
兵士達が、
本能的に膝をつく。
違う。
魂が、
勝手に恐怖している。
存在格。
あまりにも違い過ぎる。
“それ”は、
静かにレインを見る。
そして。
初めて口を開いた。
「……また泣いてるのか」
その声。
優しい。
あまりにも優しい。
だからこそ、
恐ろしかった。
レインの瞳が揺れる。
記憶。
孤独。
崩壊。
全部が蘇る。
その存在は、
ゆっくりレインへ歩いてくる。
足音すらない。
なのに。
一歩進むたび、
世界が軋む。
エルシアが震える。
「やめて……」
「その人を、出しちゃダメ……!」
だが。
遅い。
“それ”は、
レインの前へ立った。
そして。
泣いている王を見て、
静かに微笑む。
寂しそうに。
悲しそうに。
愛おしそうに。
「……今度は」
紫の瞳が、
静かに細められる。
「全部、壊す前に」
その瞬間。
終末の神が、
逃げた。

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