空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで⑪
第十一章
“死神が嗤う夜”
静かだった。
あまりにも。
つい数秒前まで。
世界は崩壊していた。
神代災害。
天門。
白い“手”。
神聖院。
黄金炎。
全てが暴れ狂っていた。
なのに今。
エルシアが立った瞬間。
戦場から、
“音”だけが消えていた。
風が吹かない。
炎が燃えない。
悲鳴すら凍っている。
兵士達は、
ただ震えていた。
理解してしまったからだ。
この女は危険とか、
災厄とか。
そんな言葉で表せる存在じゃない。
“死”そのものだと。
エルシアは静かに歩く。
コツ……
コツ……
そのたびに、
地面へ黒い霜が広がる。
草木が朽ちる。
鎧が錆びる。
兵士の一人が、
恐怖のあまり後退した瞬間。
──ボロッ
腕が落ちた。
「……ぇ?」
切られていない。
触れられていない。
なのに。
“時間だけが死んだ”。
肉が腐敗し、
骨が崩れ落ちる。
兵士は絶叫する暇もなく、
灰になった。
ルミアが顔を青ざめさせる。
「寿命を……」
「壊してる……!?」
フェルグラードが低く笑う。
黄金炎を揺らしながら。
「クク……」
「相変わらずイカれてやがる」
エルシアは反応しない。
蒼い瞳は、
ただ白い“手”を見ていた。
そして。
《終焉鎌ネメシス》。
その巨大な刃が、
ゆっくり持ち上がる。
瞬間。
空間が裂けた。
──メリメリメリ……
悲鳴みたいな音。
鎌の周囲では、
“世界”が崩れていた。
物質じゃない。
概念が壊れている。
光。
熱。
時間。
生命。
全部。
ネメシスの近くでは、
存在できない。
兵士達が絶望する。
「なんだよ……」
「なんなんだよコイツら……」
アルティナですら、
後退していた。
光翼が震えている。
断罪の聖女。
感情を失ったはずの存在。
その彼女が。
“恐怖”を見せていた。
白い“手”が動く。
無数の目が開き、
戦場全体を睨む。
──ゴゴゴゴゴ……
空気が歪む。
山脈が浮く。
空間圧縮。
たった視線だけで、
世界が壊れ始める。
だが。
エルシアは止まらない。
黒髪が揺れる。
漆黒のドレスが、
夜みたいに広がる。
彼女は静かに呟いた。
「……懐かしいですね」
その声には、
微かな哀しみが混じっていた。
レインは気づく。
エルシアは、
この“白い手”を知っている。
いや。
昔、戦ったことがある。
そんな目だった。
その瞬間。
白い“手”が、
エルシアへ向かって伸びる。
空間を削りながら。
指先が触れる前に、
地面が消滅する。
存在そのものを抹消する一撃。
普通なら。
避けられない。
だが。
エルシアは笑った。
初めて。
ほんの少しだけ。
寂しそうに。
そして。
《終焉鎌ネメシス》を振るう。
──ズバァァァァン!!!!
音が遅れて来た。
空間が。
世界が。
真っ二つに裂ける。
白い“手”の指が、
宙を舞った。
……沈黙。
次の瞬間。
天門全体が、
絶叫した。
──ギャァァァァァァァァ!!!!!!
人の声じゃない。
世界の外側の悲鳴。
兵士達が耳を塞いで倒れる。
血を吐く。
精神が耐えられない。
フェルグラードが笑いながら叫ぶ。
「ハハハハハッ!!」
「やっぱ最高だテメェ!!」
だが。
レインは凍っていた。
エルシアの背中を見て。
怖かった。
あまりにも強すぎる。
なのに。
どうしてだろう。
あの背中が、
酷く孤独に見えた。
エルシアは振り返らない。
ただ。
静かに言う。
「王」
その声だけで、
夜が深くなる。
「下がっていてください」
「これは」
彼女は、
ネメシスを構える。
刃の奥で、
無数の亡者が嗤っている。
「“私達”の戦争です」

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