空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで⑩
第十章
“第四の空席”
空が、
壊れていた。
白銀の天門。
無数の目。
神を喰らう黄金炎。
崩壊した山脈。
地獄みたいな戦場。
なのに。
その瞬間だけ。
世界から“音”が消えた。
──静かすぎた。
さっきまで響いていた悲鳴も。
燃え盛る炎も。
崩れる大地の轟音すら。
全部。
“何か”に押し潰されたみたいに止まる。
兵士達が息を呑む。
誰も動けない。
空気が重い。
違う。
“夜”が重かった。
レインは気づく。
暗くなっている。
空じゃない。
世界そのものが。
光が吸われていく。
フェルグラードの黄金炎すら、
黒へ喰われていく。
アルティナの神聖光も、
薄く濁っていく。
そして。
黒き玉座。
第四の席が、
ゆっくりと開いた。
──ギィ……
椅子を引く音。
たったそれだけで、
兵士の一人が泡を吹いて倒れた。
「ぁ……あ……」
瞳孔が開いている。
“見えてしまった”のだ。
何かを。
人間が理解してはいけないものを。
ルミアが震える。
唇が青い。
《叡智の書グノーシス》が、
勝手にページを捲り続けていた。
バサバサバサッ──!!
止まらない。
まるで。
本そのものが恐怖している。
「うそ……」
「なんで……」
「なんで反応してるの……」
ゼルヴァの額に、
汗が流れる。
あの“竜殺し”が。
神代戦争を生き抜いた怪物が。
笑っていない。
巨大な漆黒の剣を握る手に、
力が入る。
黄金の瞳が細くなる。
「王様……」
「テメェ、マジかよ……」
空間が裂けた。
──メリ……メリメリ……
耳障りな音。
空そのものに、
爪を立てて裂くような音。
そこに現れたのは。
“闇”。
違う。
闇より深い何か。
星すら呑み込む黒。
見ているだけで、
感覚が狂う。
寒い。
骨の奥まで冷えていく。
兵士達が震え始めた。
「な、なんだ……」
「息が……白……」
地面が凍る。
霜が広がる。
だが、
ただの氷じゃない。
触れた草花が、
“枯れる”。
生命だけが、
消えていく。
その闇の奥から。
足音が響いた。
──コツ……
静かだった。
なのに。
一歩ごとに、
全員の心臓が握られる。
コツ……
コツ……
誰も呼吸できない。
近づいてくる。
“死”が。
やがて。
女が現れた。
長い黒髪。
月光みたいに白い肌。
漆黒のドレス。
夜を縫って作ったみたいな衣装。
その姿は美しかった。
……美しすぎた。
だからこそ、
恐ろしい。
人間じゃない。
見た瞬間、
本能が理解してしまう。
“アレは生者の側じゃない”。
兵士の一人が、
腰を抜かした。
「ひっ……」
女と目が合った瞬間。
その兵士の身体が、
音もなく崩れ落ちる。
死んでいた。
何もされていない。
なのに。
ただ“見られただけ”で。
命が終わっていた。
ルミアが息を詰まらせる。
フェルグラードですら、
黄金の瞳を細めた。
アルティナの光翼が、
僅かに揺れる。
そして。
女はレインを見た。
深い蒼の瞳。
底がない。
まるで。
何万もの死を見続けてきた目。
その瞬間だった。
女の表情が、
ほんの少しだけ揺れた。
驚き。
懐かしさ。
……救い。
そんな感情が、
一瞬だけ浮かぶ。
彼女は静かに跪いた。
ドレスが、
夜みたいに広がる。
そして。
透き通るほど静かな声で言った。
「召喚に応じます」
「我が王」
その瞬間。
世界中の温度が、
さらに下がった。
──ズズズズ……
空気が凍る。
白い“手”が止まる。
無数の目が、
初めて“警戒”を見せた。
フェルグラードの笑みが消える。
ゼルヴァが吐き捨てる。
「最悪だ……」
レインは、
目の前の女から視線を離せない。
怖い。
なのに。
惹かれる。
死そのものなのに、
どこか悲しそうだった。
レインは絞り出すように聞く。
「……誰なんだ」
女はゆっくり立ち上がる。
その背後。
空間が、
音を立てて裂けた。
──ブチブチブチッ……
そこから現れた。
巨大な“鎌”。
瞬間。
戦場の全員が、
本能的に後退した。
禍々しい。
そんな言葉では足りない。
“終わり”そのもの。
柄は黒。
だが、
ただの黒じゃない。
覗き込めば、
吸い込まれそうな深淵。
刃には無数の紫亀裂。
まるで。
閉じ込められた亡者達が、
内側から爪を立てているみたいだった。
そして。
刃の周囲では、
空間そのものが腐っている。
空気が死ぬ。
光が死ぬ。
魔力が死ぬ。
兵士の一人が、
涙を流しながら呟いた。
「やめろ……」
「見るな……」
「アレを見たら……死ぬ……」
神話級武装。
いや。
“死神専用処刑具”。
《終焉鎌ネメシス》
その名が、
脳へ直接流れ込んだ瞬間。
何人もの兵士が、
絶叫しながら崩れ落ちた。
精神が耐えられない。
理解した瞬間、
本能が壊れる。
女は静かに言う。
「私は、エルシア」
風が止まる。
死だけが残る。
そして。
彼女は微笑みながら告げた。
「“死を終わらせた者”です」
その瞬間。
白い“手”が、
初めて怒りを見せた。
空間が悲鳴を上げる。
無数の目が開く。
世界が震える。
まるで。
“天敵”を見つけたみたいに。

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