第三部 クリスマスの朝、私は私を迎えに行く(短編小説)
翌朝。
雪は夜の思い出を覆い隠すように、
街を真っ白に染めていた。
私は布団の中で目を覚まし、
胸の奥に昨夜の余韻が残っていることに驚いた。
夢じゃない。
たしかに誰かに導かれた。
いや、あれはもしかしたら——
“本当の私”だったのかもしれない。
私はゆっくり起き上がり、
コートを羽織って外に出た。
空気は透き通っていて、
吐く息が白くほどけていく。
ベンチに腰を下ろし、
昨日と同じ場所で空を見上げた。
まだ不安もある。
まだ心は回復途中。
仕事に戻る自信なんてないし、
また傷つくかもしれない。
けれど——
もう、死にたいとは思っていなかった。
ポケットでスマホが震えた。
母からのメッセージ。
『ケーキ焼いたよ。
今日は帰っておいで。』
胸が熱くなった。
世界に自分の居場所があると、
初めて思えた。
「……帰ろう。」
私は立ち上がった。
その瞬間、
風が吹き、雪が舞い上がる。
どこかで、あの女性の声がした気がした。
——よく頑張ったね。
振り返っても誰もいない。
でも、胸の奥だけが確かに答えていた。
私は歩き出す。
真っ白な雪の上に、
私の足跡がひとつ、またひとつ刻まれていく。
これは昨日までの私の道ではない。
今日から歩く、新しい道。
私は小さくつぶやいた。
「メリークリスマス。
……生まれ直した私へ。」
そして静かに笑った。
それは、
昨日まで絶対に浮かべられなかった笑顔だった。
——イブの奇跡は、
雪みたいに静かに人を包み込むものだった。
そして今日、私は確かに受け取った。
“生きていい”という、私自身からの贈り物。
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