空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで⑫
第十二章
“死神戦争”
エルシアが、
ネメシスを構えた瞬間。
世界の“色”が変わった。
紫。
黒。
死。
空気そのものが腐敗していく。
兵士達が次々と膝をつく。
「息……が……」
「苦し……」
肺が動かない。
違う。
“生”を拒絶されている。
ネメシスの周囲では、
生命という概念そのものが崩れていた。
草木は灰になり、
鎧は錆び落ち、
魔力は黒く濁って消える。
神聖院の魔導障壁ですら、
音もなく腐り落ちていった。
アルティナが、
初めて声を荒げる。
「全艦後退!!」
だが。
遅かった。
エルシアが一歩踏み出す。
──コツ……
その瞬間。
神聖院船団の一隻が、
“崩れた”。
──ボロッ……
木材が腐る。
鉄が朽ちる。
人間が老いる。
たった数秒で、
数百年分の時間が流れたみたいに。
船が崩壊する。
悲鳴を上げる暇すらない。
兵士達は、
白骨になって砕け散った。
レインは息を呑む。
「……なんだよ」
「この力……」
怖かった。
本気で。
ゼルヴァやフェルグラードとは違う。
暴力じゃない。
もっと静かで、
もっと絶望的。
“終わり”そのもの。
エルシアは振り返らない。
ただ、
白い“手”だけを見ていた。
その蒼い瞳には、
怒りも憎しみもない。
あるのは。
深い疲労。
そして。
終わりの見えない孤独。
レインは気づく。
この女は、
ずっと戦ってきた。
何百年も。
何千年も。
誰にも知られず。
死を背負って。
その時。
白い“手”が動いた。
無数の目が開き、
戦場全体を見下ろす。
──ギョロリ
瞬間。
兵士達の身体が裂けた。
「がぁぁぁぁ!!」
「目が!!」
精神汚染。
理解した者から壊れていく。
ルミアが叫ぶ。
「見ちゃダメ!!」
「視線そのものが攻撃なの!!」
フェルグラードが、
黄金炎を爆発させる。
「舐めるなァァァ!!」
──ドゴォォォォォン!!!
巨大な黄金炎柱が、
白い“手”へ突き刺さる。
空間が溶ける。
世界が燃える。
だが。
白い“手”は止まらない。
逆に。
黄金炎を“吸収”していた。
フェルグラードの顔が歪む。
「また喰いやがるか!!」
白い“手”の周囲では、
法則そのものが違う。
魔力。
炎。
生命。
全てが、
向こう側の“餌”。
だから。
神代ですら、
倒せなかった。
その瞬間。
エルシアが消えた。
──ゾッ
レインの背筋が凍る。
見えなかった。
速すぎる。
いや。
“死”が移動しただけ。
次の瞬間。
エルシアは、
白い“手”の目前にいた。
黒髪が舞う。
ネメシスが唸る。
刃の奥で、
無数の亡者達が笑っていた。
エルシアは静かに呟く。
「……まだ」
「終わってなかったんですね」
その声には、
悲しみが滲んでいた。
まるで。
終わったと思っていた悪夢が、
再び蘇ったみたいに。
白い“手”が、
エルシアへ向けて振り下ろされる。
山脈を消し飛ばした一撃。
世界抹消。
だが。
エルシアは動かない。
ただ。
ネメシスを振るう。
──ズバァァァァァァン!!!!
音が、
世界から消えた。
次の瞬間。
空が割れる。
白い“手”の腕が、
根本から切断されていた。
黒い亀裂。
その断面から、
白銀の液体が噴き出す。
天門が絶叫した。
──ギャァァァァァァァァ!!!!!!
空間震動。
兵士達が耳を塞いで倒れる。
アルティナが目を見開く。
フェルグラードが笑う。
ゼルヴァが舌打ちする。
そして。
レインだけが、
エルシアを見ていた。
その背中は。
あまりにも綺麗で。
あまりにも孤独だった。

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