空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで⑧
第八章
“天門”
空が、
泣いていた。
白銀の“門”が開くたび、
世界そのものが軋む。
──ギィィィィ……
重い。
あまりにも重い音。
耳ではなく、
魂へ直接響いてくる。
兵士達が次々に膝をついた。
呼吸ができない。
心臓が握り潰される。
ただ“存在している”だけで、
周囲の生命を圧迫していた。
天門。
神聖院最大禁忌。
“神域接続装置”。
本来、
人間が触れてはいけないもの。
その巨大な門の表面では、
無数の“目”が蠢いていた。
ぎょろり。
ぎょろり。
まるで、
こちらを観察している。
いや。
値踏みしている。
“生きる価値があるか”を。
ルミアの唇が震えた。
「……見ちゃダメ」
「アレを長く見ると……壊れる」
実際。
兵士の一人が、
突然絶叫した。
「ヒッ……あ……あぁぁぁぁぁ!!」
自分の顔を掻きむしる。
爪が肉を裂く。
血が飛ぶ。
「目が!!」
「見られてる!!」
次の瞬間。
その兵士の身体が、
内側から裂けた。
──ブチィッ!!
肉が弾け、
赤黒い霧になって消える。
静寂。
誰も動けない。
ガルドの顔は、
完全に恐怖で引き攣っていた。
「なんだ……」
「なんなんだよ……コレは……」
フェルグラードですら、
眉をひそめていた。
黄金炎が揺らぐ。
“神喰らい”が警戒している。
それだけで、
どれほど異常な存在か分かる。
ゼルヴァが低く呟く。
「王様」
「最悪だ」
「アレ、“向こう側”と繋がってる」
レインは空を見る。
巨大な門。
目。
白銀の光。
そして。
門の奥。
“何か”がいた。
見えない。
なのに分かる。
視線。
圧。
理解不能な存在感。
脳が拒絶する。
それでも。
レインは目を逸らさなかった。
すると。
脳内で、
黒き玉座が震える。
──ゴゴゴゴゴ……
空席が鳴いている。
怒っている。
まるで。
“敵”を認識したように。
そして。
声。
《警告》
《天上権限存在 接近》
《王座との完全敵対を確認》
次の瞬間。
天門の奥から、
巨大な“手”が現れた。
白い。
異様なほど白い。
だが。
人間の手じゃない。
指が多い。
関節が逆。
皮膚の表面を、
無数の瞳が這っている。
兵士達が絶叫した。
「ひっ……!」
「出てくる!!」
アルティナが、
初めて表情を変えた。
……怯えていた。
ほんの僅か。
けれど確かに。
その“手”が、
門から現れた瞬間。
世界の色が薄くなる。
空気が死ぬ。
音が消える。
そして。
その存在は。
レインを見た。
瞬間。
頭の中へ、
直接声が響く。
人の言葉じゃない。
なのに理解できる。
《王座》
《まだ、残っていたか》
レインの身体が凍る。
……知っている?
コイツは。
“空席の王”を。
その瞬間。
黒き玉座が、
爆発的に紫雷を放った。
──バチィィィィン!!!!
空間断裂。
レインの背後へ、
巨大な黒い玉座が実体化する。
兵士達が吹き飛ぶ。
地面崩壊。
空が裂ける。
ルミアが息を呑んだ。
「玉座が……」
「怒ってる……!?」
フェルグラードが笑う。
獰猛に。
「ハハッ!!」
「面白ぇ!!」
「そうか!!」
「テメェ、“向こう側”か!!」
黄金炎が爆発。
フェルグラードが、
空へ飛び上がる。
その巨体が、
流星みたいに天門へ突っ込んだ。
──ドゴォォォォォン!!!!
黄金と白銀が激突。
空間そのものが悲鳴を上げる。
その衝撃で、
地平線まで吹き飛んだ。
だが。
“白い手”は止まらない。
ゆっくり。
ゆっくり。
門から這い出てくる。
アルティナが震えながら呟いた。
「……神、様」
違う。
レインは本能で理解した。
アレは神じゃない。
もっと古い。
もっと悍ましい。
“神ですら恐れた何か”。
そして。
その視線は、
真っ直ぐレインを見ていた。

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