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空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで⑦

第七章

“断罪の聖女”


空が、割れていた。

夜空を覆う雲は、
もはや雲ではない。

白銀の魔法陣。

幾重にも重なった神聖術式。

その中心から、
無数の“光槍”が産まれていた。

一本一本が、
城壁を消し飛ばせるほどの密度。

それが。

流星群みたいに落ちてくる。

──ヒュォォォォォッ!!!!

空気が焼ける音。

次の瞬間。

──ドゴォォォォォン!!!!

大地が爆発した。

森が消える。

木々が吹き飛び、
土砂と岩盤が空へ舞い上がる。

兵士の悲鳴。

肉の焼ける臭い。

鎧が溶ける音。

さっきまで人が立っていた場所には、
巨大なクレーターだけが残っていた。

「ぎゃああああ!!」

「助け──」

二発目。

言葉ごと蒸発した。

レインは反射的にルミアを抱き寄せ、
崩れた岩陰へ飛び込む。

衝撃。

肺の空気が全部抜ける。

耳鳴り。

視界が揺れる。

熱い。

いや。

熱を通り越して、
“世界そのもの”が灼けていた。

岩肌が赤熱し、
空気が白く歪んでいる。

ルミアが震えながら、
レインの服を掴んだ。

「っ……ぁ……」

小刻みに震えていた。

恐怖。

それだけじゃない。

“思い出している”。

神聖院に追われ、
世界から災厄扱いされた日々を。

誰からも手を伸ばされず、
石を投げられた記憶を。

レインは気づいていた。

だから。

抱える腕に、
少しだけ力を込める。

「大丈夫だ」

ルミアが目を見開く。

こんな状況で。

自分を安心させようとしている。

この男は、
本当におかしい。

普通なら。

逃げる。

見捨てる。

関わらない。

なのに。

レインは、
“仲間”として扱ってくれる。

その温もりに、
ルミアの胸が苦しくなった。

一方。

空中。

断罪の聖女アルティナは、
感情のない瞳で地上を見下ろしていた。

白銀の長髪が、
神風に揺れる。

六枚の光翼。

純白の神装束。

その姿は美しい。

……だが。

美しすぎて、
逆に恐ろしい。

まるで。

“人間を模した何か”。

アルティナは、
静かに剣を掲げる。

すると。

空に浮かぶ数百の魔法陣が、
一斉に回転を始めた。

──ギギギギギ……

空そのものが悲鳴を上げる。

兵士達が青ざめた。

「ま、待て……」

「まだ撃つのか!?」

「味方が残って……!」

アルティナは答えない。

いや。

“必要がない”。

感情が存在しないから。

ただ、
命令を実行するだけ。

フェルグラードが笑った。

低く。

獣みたいに。

「ハハ……」

「良いなァ」


黄金の炎が、
巨大な身体から噴き出す。

熱量だけで地面が溶ける。

神を喰った怪物。

神代災害。

フェルグラードは、
口元を歪めた。

「久々だ」

「こんなに“殺し甲斐”のある相手はなァ!!」


──ドゴォォォォォン!!!!

黄金炎が天へ噴き上がる。

アルティナの光槍群と正面衝突。

世界が白く弾けた。

衝撃波。

轟音。

空間震動。

レイン達のいる地面が、
何十メートルも抉り飛ぶ。

風圧だけで兵士達が宙を舞った。

鎧ごと木へ叩きつけられる。

骨が折れる音。

絶叫。

阿鼻叫喚。

もう戦場ではない。

災害と災害が、
互いを喰らい合っているだけだった。

ゼルヴァが、
巨大な漆黒の剣を肩へ担ぎながら笑う。

銀髪が紫雷に照らされる。

片目の黄金。

片目の深紅。

背中の竜骨外套が、
暴風の中で唸る。

「最高だな」

「血が騒ぐ」

彼女は本気だった。

嬉しそうだった。

戦場こそが、
彼女の居場所だから。

その時。

アルティナの視線が、
レインへ向いた。

感情のない瞳。

だが。

ほんの少しだけ、
違和感が混じる。

レインは立ち上がった。

怖かった。

膝が震えていた。

心臓がうるさい。

逃げろと、
本能が叫んでいる。

なのに。

目を逸らせなかった。

アルティナの目が。

昔の自分に見えたからだ。

“誰かの命令だけで生きる目”。

奴隷だった頃。

殴られても、
罵倒されても。

何も感じないようにしていた。

心を殺していた。

アルティナも同じだった。

だから。

レインは言った。

「……お前」

「つまらなそうだな」


世界が静止した。

ゼルヴァが目を見開く。

「は?」

ルミアも固まった。

フェルグラードですら、
笑うのを止めた。

アルティナの瞳が、
微かに揺れる。

初めて。

感情が漏れた。

困惑。

理解不能。

そんな色。

「……何を」

レインは真っ直ぐ見返した。

「誰かに命令されて」

「誰かを殺して」

「それ、お前の意思か?」

その瞬間。

空の魔法陣が、
一瞬だけ乱れた。

本当に一瞬。

けれど、
確かに揺れた。

アルティナの心が。

そして。

空が鳴いた。

──ゴゴゴゴゴ……


誰もが見上げる。

雲の奥。

神聖院船団のさらに後方。

そこに現れたものを見て、
ルミアの顔が絶望に染まった。

巨大な門。

白銀。

神々しい。

だが異様。


門の表面には、
無数の“目”が埋め込まれていた。

生きているみたいに、
ゆっくり瞬きをしている。

見てはいけないものを見た感覚。

魂が拒絶する。

ガルドが膝から崩れ落ちた。

「“天門”……」

「なんで……」

「こんな場所に……」

フェルグラードの笑みが消える。

ゼルヴァも真顔だった。

ルミアは震えながら、
レインの袖を掴む。

「逃げよう……」

「お願い……」

「アレだけはダメ……」

だが。

黒き玉座は、
さらに強く輝き始めていた。

まるで。

“敵”を認識したように。

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