空席の王 ──奴隷だった俺が最強の仲間を召喚して世界を支配するまで㉜
第三十二章
“虚王の願い”
終末が、
止まっていた。
いや。
違う。
“虚王によって止められていた”。
世界そのものを喰らう神。
その本体が。
今。
空中で固定されている。
逃げることも。
暴れることも。
許されない。
兵士達は、
ただ震えていた。
理解不能。
常識崩壊。
神代の英雄ですら、
ここまでではなかった。
虚王は、
静かに空を見上げている。
長い黒髪。
紫の瞳。
黒い外套。
その姿は、
どこまでも静かだった。
なのに。
周囲の世界だけが、
壊れ続けている。
存在しているだけで、
現実が耐えられない。
レインは、
その背中を見つめていた。
胸が痛い。
苦しい。
まるで。
自分の未来を見ているみたいだった。
その時。
虚王が、
小さく笑った。
「……そんな顔するな」
優しい声。
レインは、
反射的に言い返す。
「アンタ……何なんだよ」
沈黙。
風が吹く。
終末の空を、
紫雷が走る。
やがて。
虚王は静かに口を開いた。
「お前が」
「全部失った先だ」
その瞬間。
レインの呼吸が止まる。
エルシアが目を閉じる。
ノクスは、
悲しそうに俯いた。
フェルグラードも、
珍しく何も言わない。
ゼルヴァだけが、
舌打ちした。
「だから嫌だったんだよ」
「コイツ出すの」
レインは、
虚王を見る。
同じ瞳。
同じ魔力。
同じ王権。
違うのは。
“孤独の深さ”だった。
虚王の瞳には、
何も残っていない。
怒りも。
希望も。
絶望すら、
通り過ぎた先の色。
その時。
終末の神が、
再び暴れ始める。
──ギャァァァァァァァ!!
巨大な肉塊が、
空間を削りながら膨張する。
終末本体。
完全顕現。
世界そのものが、
悲鳴を上げていた。
ルミアが叫ぶ。
「このままじゃ世界が持たない!!」
星喰いの魔女も、
笑みを消している。
「アレ、本気で来るわよ♡」
アーク・ゼノンの赤眼が点滅する。
《世界崩壊予測》
《残存時間 六百秒》
兵士達が絶望する。
六百秒。
あと十分で、
世界が終わる。
だが。
虚王は動かない。
静かに。
終末本体を見つめるだけ。
その背中が、
あまりにも孤独だった。
レインの胸が軋む。
気付いてしまったから。
この人は。
ずっと独りだった。
誰にも理解されず。
誰にも止められず。
全部を背負って。
全部を壊して。
それでも。
戦い続けた。
レインは、
拳を握る。
そして。
ゆっくり虚王へ歩き出した。
エルシアが息を呑む。
「レイン……!」
だが。
レインは止まらない。
虚王の隣へ立つ。
すると。
虚王が、
少し驚いた顔をした。
レインは、
静かに言う。
「……独りで全部背負うなよ」
その瞬間。
虚王の瞳が、
大きく揺れた。
初めて。
本当に初めて。
感情が漏れた。
苦しそうに。
泣きそうに。
壊れそうに。
虚王は、
震える声で呟く。
「……それを」
「言ってくれる奴が」
紫雷。
黒い空。
終末。
その全ての中で。
虚王は、
小さく笑った。
「昔も居れば良かったのにな」

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