⑱誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”
人は、集まる
朝、家の前が少し騒がしかった。
声が重なる。
足音が増える。
(……何かあった?)
外に出ると、
見覚えのある顔がいくつかあった。
畑で一緒に作業した人。
井戸の前で挨拶を交わした人。
昨日、話し合いの場で黙っていた人。
全員、
決意の顔をしているわけじゃない。
ただ、
“来てしまった”という表情。
「……おはよう」
そう言うと、
誰かが頷いた。
誰かが、
気まずそうに視線を逸らす。
それでいい。
無理に、
何かを言わせる必要はない。
「井戸の水、
もう一度見てほしい」
年配の女性が、
遠慮がちに言った。
「畑の土も……」
別の声。
頼まれている、
というより。
“一緒に考えたい”
そんな空気。
(……集まってきてる)
理由は、
分かっていた。
昨日、
逃げなかった。
それだけだ。
井戸の底を覗く。
水脈が、
微妙にずれている。
自然の変化。
世界の保護が外れた結果。
(……戻らない)
世界に頼らないと決めた以上、
ここからは、人の手だ。
「……一気には直らない」
正直に言う。
「でも」
石を組み直し、
水の流れを変える。
力を、
誇示しない。
使うのは、
知識と手間。
「……助かる」
誰かが、
ぽつりと言う。
感謝じゃない。
評価でもない。
共有だ。
昼過ぎ。
家の前に、
さらに人が増えた。
若い男。
腰の曲がった老人。
子どもを連れた母親。
「……話を聞いた」
「俺も、
手を貸せる」
「失敗しても、
文句は言わん」
言葉は、
ばらばら。
でも。
(……同じ場所を見てる)
「ありがとう」
そう言うと、
誰かが照れたように笑った。
「礼は、
いらん」
「ここで、
暮らしたいだけだ」
胸の奥が、
少し熱くなる。
夕方。
簡単な集まりが、
自然とできていた。
誰が仕切るわけでもない。
誰が決めるわけでもない。
話す人。
聞く人。
黙る人。
それぞれが、
そこにいる。
(……これが)
(……居場所、なのか)
レイヴァが、
少し離れたところで見ている。
目が合うと、
小さく頷いた。
夜。
焚き火の前で、
今日のことを振り返る。
「……集まってきたな」
レイヴァが言う。
「うん」
「だが、
勘違いするな」
視線が、
鋭くなる。
「お前は、
“導いて”いない」
「人は、
お前を見て
自分で動いた」
……そうか。
「それが、
象徴の正体だ」
「命令せず、
強制せず」
「それでも、
集まる」
焚き火が、
静かに燃える。
人の影が、
揺れる。
世界は、
まだ守らない。
でも。
人は、
集まり始めた。
それだけで、
十分だった。
読者のみなさまへ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この章では
“象徴の周りに、人が集まり始める瞬間”を描きました。
カイは導者ではなく、
逃げなかった存在として立っています。
もし
「この集まりがどう形になるのか気になる」
「人が集まることで何が変わるのか見届けたい」
と感じていただけたら、
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