⑰誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”
守られなかった現実
異変は、静かに始まった。
朝、井戸の水が濁っていた。
いつもより、わずかに冷たい。
「……変だな」
そう口にしたのは、
誰かじゃない。
僕自身だった。
村人たちは、
気づかないふりをした。
気づかないほうが、
楽だからだ。
(……世界は、
直接は壊さない)
(……“手を離す”だけ)
レイヴァの言葉が、
頭をよぎる。
昼前、
畑で騒ぎが起きた。
芽吹いたばかりの作物が、
一列だけ、枯れている。
病気でも、
害虫でもない。
原因が、分からない。
「……今年は、
ついてないな」
誰かが言う。
「雨も、
ずれてる」
「井戸も、
調子が悪い」
言葉は、
不満に変わらない。
でも。
視線が、
少しずつ、
こちらに寄ってくる。
(……始まった)
夕方。
村の外れで、
子どもが転んだ。
小さな怪我。
血も、
大したことはない。
それなのに。
「……最近、
変なことが多い」
「災いが、
近づいてるんじゃ……」
誰も、
名前は出さない。
でも。
(……分かってる)
(……“正解”を拒んだ、
その隣にいる)
それが、
僕だ。
夜。
代表が、
ひとりで訪ねてきた。
表情は、
硬い。
「……直接、
責めたいわけじゃない」
そう前置きしてから、
言う。
「だが……」
言葉を、
探している。
「村が、
守られていない」
胸の奥が、
重くなる。
「君が、
“役割”を拒んだ」
「それで、
世界が手を引いた」
「結果として——」
視線が、
床に落ちる。
「割を食っているのは、
ここだ」
……分かっている。
分かっていて、
選んだ。
「……すみません」
それしか、
言えなかった。
代表は、
首を振る。
「謝罪が、
欲しいわけじゃない」
「ただ……」
目が、
揺れる。
「正解を、
拒んだ責任は、
どう取る?」
責任。
その言葉が、
胸に突き刺さる。
(……来た)
夜更け。
レイヴァと、
焚き火の前に座る。
火が、
弱く揺れる。
「……これが、
副作用だ」
彼女は、
静かに言う。
「世界は、
守らない」
「だから、
壊れる」
「お前が拒んだのは、
世界の“管理”だ」
「だが——」
視線が、
こちらを向く。
「人の現実は、
待ってくれん」
拳を、
握りしめる。
真紅の翼の紋章が、
静かに脈打つ。
(……じゃあ、
どうする)
(……結局、
誰かが、
肩代わりするしかないのか)
「……カイ」
レイヴァの声が、
低くなる。
「“正解”を拒んだなら」
「別の答えを、
出せ」
「世界の代わりに、
守れ」
「役割ではなく、
選択として」
胸の奥で、
何かが、はっきりした。
翌朝。
僕は、
村の中央に立った。
「……話があります」
人が、
集まる。
警戒。
疲労。
不安。
全部、
正しい。
「僕は、
世界の正解を拒みました」
ざわめき。
「だから、
世界は、
ここを守っていません」
「それは、
事実です」
息を、
整える。
「でも」
一歩、
前に出る。
「だからといって、
見捨てる気はない」
「役割じゃない」
「命令でもない」
「……僕が、
ここにいると、
決めただけです」
静寂。
「井戸の件、
原因を探します」
「畑の問題、
手を尽くします」
「それで、
上手くいかないなら——」
少し、
言葉を切る。
「それでも、
逃げません」
誰かが、
息を吸う。
誰かが、
目を伏せる。
「……それは」
代表が、
静かに言う。
「世界の代わりを、
やるということか」
「いいえ」
首を振る。
「世界じゃない」
「人として、
やるだけです」
夜。
家に戻ると、
身体が、
少しだけ重かった。
レイヴァが、
隣に立つ。
「覚悟は、
もう後戻りできん」
「うん」
「だが」
彼女は、
静かに続ける。
「その選択は、
お前を——」
「“象徴”にする」
象徴。
重い言葉。
でも。
(……逃げなかった証だ)
外で、
風が吹く。
世界は、
もう守らない。
だから。
人が、
守る番だ。
読者のみなさまへ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
この章では
“正解を拒んだ副作用”が、現実として現れる瞬間を描きました。
世界は手を離し、
責任は、人に戻ってきます。
もし
「この選択がどう広がるのか気になる」
「カイが“象徴”になる意味を見届けたい」
と感じていただけたら、
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