仮面の舞踏、カラフルな死
あれも書きたいこれも書きたいと思いつつ、あれも書けなかったこれもまだ書いてる途中、という現実に直面する今日この頃。今年中に書いておきたいことは今書くしかない、ということで、今回は今年のアルゼンチンタンゴ世界選手権・ステージタンゴ部門で優勝して話題になった Leandro Bojko と Micaela Garcia のダンスについて書いてみたいと思います。
彼らのパフォーマンスは下のリンクからみていただけますが、タンゴ定番のセクシーな男女が踊る愛憎ドラマとは異なり、頭部を覆う黒いマスク姿で踊ったミカエラが、迷い込んだ相手を死に導く存在を造形して強烈な印象を残しました(音楽はアストル・ピアソラ + Sexteto Mayor の『Kicho』)。ある意味ネガティブなイメージなのですが、準決勝、決勝と踊られるたびに、ダンスの持つ物語性がというか、キレイだったねに終わらせない部分が観客にも浸透していくのが感じられ、そういう演劇的な余韻が、彼らのパフォーマンスを他から頭一つ抜け出させた、といえるかもしれません。
マスク姿ということで、Fabian Peralta と Virginia Pandolfi が 2008年のムンディアルでのダンスを連想した人も多かったようですが、こちらは二人がアメリカのアニメ、ベティ・ブープのキャラに扮して踊るコメディ調のダンスで今年のダンスと直接比較ができる面は少ないように思います。(2006年に Natacha Poberaj と当時はサロン部門と呼ばれたピスタ部門のチャンピオンをとったファビアンが、新しいパートナーのビルジニアとステージ部門に挑戦、という意味では話題になりましたが。)
むしろ、女性の姿をした死神ということで思い浮かぶのは、ジャン・コクトーの台本にローラン・プティが振付けたバレエ作品『青年と死(Le Jeune Homme et la Mort)』。こちらの音楽は J.S.バッハの「パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV 582」。ピアソラがバッハから大きな影響を受けたということはよく知られているので、そういう意味から2つの作品に関係をみても面白いかも。
バレエ『青年と死』は、映画『ホワイトナイツ/白夜』の冒頭でミハイル・バリシニコフが Florence Faure と踊って一躍有名になりましたが、他にも数多くのダンサーが忘れがたい名演を残している名作です。(この作品についてnote 味噌煮さんが熱く語っておられる記事はコチラ)
黄色のドレスに黒手袋の死神など、衣装小道具も計算されつくしているこの作品でもマスクが使われていたはず、と再度ビデオをみてみましたら、ありました! 最後の場面。死神のマスク姿が滑稽なのに、怖~っ、と今回も戦慄。何回みても擦り減らないっていうことも名作の条件だ、ということを再認識です。
ムンディアルのダンスもラストがうまい。タンゴが背負ってきた「自堕落な生活」「避けられない破滅」といった負のイメージを、長身のレオナルドが崩れ落ちるラストで鮮やかに表現していて、ああ、ここに行きつくための3分間だったのか、と納得させられます。
そういう身を持ち崩す男のイメージからの連想ではこちら、フランスの画家 Albert Maignan の作品『緑の妖精(The Green Muse)』緑の妖精とは幻覚などを引き起こすツヨンという成分を含んでいた緑色のリキュール、アブサンのこと。

インスピレーションを求めてアブサンをのみ続けた詩人の前についに緑の妖精がその正体を現す……。現在のアブサンは改良され安全な飲み物になっていますが、タンゴが大流行した19世紀末から20世紀初めには(安価なアルコールだったこともあり)アブサン中毒で命を落とした人も多かったのだそうです。
緑、黒、黄色。死と破滅はいろいろ様々な色合いでやってくる……。これも怖いなー。これから年末年始、皆様、お酒もタンゴもほどほどに、体に気をつけて楽しみましょうね💦
©Rico Unno, 2025, CC BY-ND
