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エバリスト・カリエーゴに捧ぐ

プグリエーセの? やっぱガビートなんじゃないの? アルゼンチンタンゴを踊る人だけでなく、観る人も聴く人も、その名を聞くと思わずざわついてしまうのが、この曲『A Evaristo Carriego (エバリスト・カリエーゴに捧ぐ)』

作曲はバンドネオン奏者でもあった Eduardo Rovira (彼については note の Latina 誌上の 吉村俊司さんの記事をぜひお読みください)。アルゼンチン文学に寄せたインストゥルメンタル曲3部作のひとつで、詩人エバリスト・カリエーゴに献呈されています。タイトルからはどういう曲なのか想像がつきませんが、これがすごくカッコいいのです。

1966年に「現代モダン」タンゴとして発表されたですが、今もその新しさは失われていないし、バンドネオン、ギター、ベースのトリオが緊密な関係を保ちながら展開して、楽器を弾ける人だったら、演奏してみたい~と思うのではないでしょうか(こちらはSONICOの演奏ピアニカ(メロディオン?)バージョン)。

……でもこれ、私の知ってるのと全然違う、これじゃ踊れないじゃん、というアナタ。ハイハイわかります。なじみがあるのは、やっぱりこっちですよね~。

オスバルド・プグリエーセ楽団の演奏(1969年)ですが、ロビーラ・トリオの淡々とした演奏に比べ、とオルケスタの各パートが重層的に鳴って、4分弱の間にゴッドファーザー3部作を一気に見たようなドラマチックさ。ホントに同じ曲? というくらい違いますよね。

いきなり別世界へ連れていかれて、踊るの忘れちゃいそうですが、このバージョンは、バイラブレ無理なく踊れる。踊る人たちとともに発展してきたタンゴ音楽にとって、バイラブレなことはとても重要な要素で、そのあたりをこのプグリエーセ楽団の演奏は押さえているわけです。

それでも、ただのダンスの伴奏に終わらせないのがプグリエーセ楽団の凄いところで、彼らのバージョンは踊らない人たちにも人気があります。つまり、聴くタンゴとしてもちゃんと成立しているわけです。

無音の音を聴く

音楽の複雑さがましてくると、ダンスの方も半端なことでは追いつかない。A Evaristo Carriego はそういう、ダンサーにチャレンジしてくるところがある曲なので、ミロンガで踊るアマチュアだけでなく、プロのパフォーマンスも気合の入ったのが多く、タンゴ・ウオッチャーなら、どのダンサーのが良かった💕、独創的👍、空回り😵‍💫などなど、いろいろな感想があることかと思います。

この曲を踊った人、といってまず名前が挙がるのは、カルロス・ガビート(Carlos Gavito)ではないでしょうか。彼が1990年代にタンゴ・ショー Forever Tango で Marcela Durán と踊ったダンスは、今ではもう伝説といっていいでしょう。このダンスは YouTube でも観ることができます。ダンスの文脈は、若い恋人の心変わりを疑う、盛りを過ぎた男の苦悩、といったところ。当時、全世界の熟年男性のハートを鷲掴みにした💘といって過言でないダンスなのです。

ショー以外でも、ガビートのダンスは最小限の動きで最大限の表現をするところに肝があって、ステップらしいステップもなく、ほとんど動かない。それでも彼とパートナーが深いアブラソで踊りだすと、空気中のタンゴ濃度がぐっと上がって、痛みを伴う思い出とか、あきらめた夢とか、失ってしまったものへの愛とか、そういうものタンゴの持つメランコリーが、いきなり現実感をもって迫ってくる。そういうマジカルなところがビデオでは伝わらないかも……と個人的にはちょっと残念。

また、ガビートは語り手としてもとても魅力的な人だったそうで、この世代のパフォーマーには珍しく英語も堪能だったこともあり、彼との会話を今も宝物のように胸に抱いている人達が世界中にいます(例えば、note GYU さんの思い出はこちら)。下のビデオはその魅力の片鱗がうかがえる Hector Pablo Pereyra のインタビュー。スペイン語ですが、この声、話し方、意味わからなくたって魅力的じゃないですか~。(熟年タンゲーロのみなさん、ミロンガでは下手な講釈よりこういう陰影がモテる。ハードルは高いけど、狙うならソコですよ🌹)


世代を超えて

さて、いろんな意味でガビートの対極にあるのが Facundo Piñero と Vanesa Villalba の2015年のダンス。

二人が同世代なこともあってか、こちらのダンスは等身大の男女の葛藤・すれ違い、過去形でなく現在進行形のドラマを感じさせますね。それにファクンド のダンスがキレまくり。スローでみたってよくわからないくらいの動きがあっちにもこっちにも。この狭いフロアでこのパフォーマンスを生で見た人たちは、きっと一生忘れないでしょうね~(ウラヤマシイ)。

ファクンドとヴァネッサも Forever Tango の OB。ガビートよりはずっと後の世代のキャストで、オーディション時ファクンドは17歳だったとか。先にショーに参加していてオーディションの審査員でもあったヴァネッサは、その時ファクンドに不合格の評価をつけました。しかし、プロデューサーのルイス・ブラボーの評価は合格で、さらに、当時新しいパートナーを探していたヴァネッサに「ファクンドをよく見て。彼と組んでみませんか?」といったそう。その時は断った彼女も、ブラボーの再三の勧めもあり、結局ファクンドと踊るようになったのだとか。ダンサーを発掘し、力を発揮できる場を与えて成長させ、タンゴシーンに影響を与える……偉大なプロデューサー、偉大なショーって大事ですね~。

このビデオから10年、あちこちで素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた ファクンドとヴァネッサですが、へそ曲がりの私は、ちょっと上手すぎじゃね~の、と彼らのダンスは一通り見るだけでスルーしていました。が、しかし、最近のビデオを見て考えを改めました。


見せてやろうじゃなくて、自然ににじみだしているなにか、成熟、みたいなものが感じられてすごくいい感じ💕(いまさら何いってんのさ、という Facundo y Vanesa ファンの皆さん、スミマセン。)

タンゴのいい所は、ダンサーのパフォーマー寿命が長いこと、年月につれ変わっていくダンスをファンも共に楽しむことができるところです。さて、ファクンドとヴァネッサ、さらに10年後はどうなってるでしょうね? 今から楽しみ🌹
©2025, Rico Unno, CC BY-ND


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