開くべきか閉めるべきか、それが問題だ
何の話って? もちろんアブラソの話ですよ。
アルゼンチンタンゴを踊る時のダンスホールドをさしてアブラソ(abrazo)、スペイン語で「抱擁」という意味。ざわっとくるネーミングにたがわずパートナーとの距離は、近い。……だから離れたらタンゴっぽくないよね……でもあまり近すぎるのもナンだし……などなど、趣味でタンゴを踊る私たちにとっては、何度踊ってもその度に悩ましいことなんです。
(タイトルイメージ by Alain Bonnardeaux)
アブラソは左右非対称で、リーダーの右側・フォロワーの左側では腕を相手の上体にまわして(下図手前)、反対側では腕は軽く伸ばして手をとりあっています(下図奥)。体に回しているほうの腕をお互いに滑らせて回し方を深くしていきますと、胸と胸がつく位置に来て、片腕でお互いを「抱擁」したような形になります。このように腕の回し方を深くして近づくのをアブラソを閉めると申します。閉めながら顔がぶつからないように少し体をずらしますので、リーダーはフォロワーを右手で右胸側に抱えたような格好になり、また、足の位置は変えないので、横から見ると二人はすこしA字型になって立っています。
ドキドキを克服してうまく閉まりますと、フォロワーはリーダーの腕の中にすっぽり収まって、バランスを失うことなくリーダーの体の芯がちゃんと感じられ、リーダーはフォロワーを重く感じず楽に向きをかえることができ、また、二人の足の間には十分なスペースがあるので、相手の動きを邪魔せず細かい足技もできる理想的な態勢になります。この状態がアルゼンチンタンゴの典型的なホールドの一つで単にアブラソ、もしくは「閉まった」アブラソ(abrazo cerrado)と呼びます。

(Image by Preillumination-seth)
逆に、腕の回し方を浅くするのをアブラソを開ける、といいます。開けるときは閉まっているときに感じられたお互いのコネクションを失わないように慎重に腕を滑らせていきます。最大に開いた状態でリーダーの右手はフォロワーの左肩甲骨下、フォロワーの左手はリーダー右腕の上腕二頭筋のあたりでしょうか。なので一口に「開いた」アブラソ(abrazo abierto)といっても距離は様々、ということになります。

(Image from Cristian Cerezo)
踊りながら変わりつづけるパートナーとの位置関係にあわせて、また色々なステップをこなす、動きに表情をつけるため、1曲のなかでも様々な閉め具合、開き具合のアブラソが使われます。でも、どこでどれだけ閉める・開けるは十人十色。曲の種類、歴史的背景、個人の思想信条も加わって、
「Don Benito のXXの毛にかけて、開いたアブラソなんてアブラソじゃねえ」
とか、
「安心毛布じゃあるまいし、抱きしめてたらいいってもんじゃない」
とか、
「開け閉めうんぬんの前に(ダンスフロアで踊っている他の)人にぶつからないようにすることの方を心配してほしいわ」
とか、下手にふったら収拾がつかなくなる危険な話題でもあります😅。
ドキドキ・ファクター
技術論はさておき、なんでアブラソで大騒ぎになるか、っていうと、それはやっぱりドキドキ・ファクターがあるからですよね。でも、それは単に体がくっつく・くっつかないってことじゃない。
ミロンガでは、ある人を誘っちゃった/に誘われちゃった、って時点ですでにドキドキ。
その人、今、目の前に立ってるよ、音楽始まっちゃったよ……でさらにドキドキ。
自分はこういうアブラソで踊りたいけど、相手はどうかな、と探りあってドキドキ。
中途半端なアブラソで踊り始めたのに、ある時すっぽりお互いの腕の中にいたりしてドキドキ。
二曲目、三曲目、と慣れてきたころにコルガーダぐるん! とかあってドキドキ。
そして、タンダの終わりに、あ、もう終わっちゃったんだ、ってちょっと心残りに感じられる……な~んて、ミロンガでしか味わえない時間じゃないですか~💕
ふーむ、でもやっぱりミロンガで踊るっていうのはやっぱりややこしい遊びですね。アブラソもその一部なので、このアブラソだったらいつでも誰でもハッピー、なんてことはありえない。……となったら、事前に練習しかないか……。Suyay Quiroga と Jonny Carvajal をお手本に、今日のプラクティカ、テーマは自在なアブラソでいってみよう🌹
©2025 Rico Unno, CC BY-ND
