壁の花:その傾向と対策
ダンスに誘われない。……せっかく新しいドレスで来たのに。練習もしたのに。ダイエットもしたのに! 踊ってくれたのは今日初めてアルゼンチンタンゴのレッスンをうけたっていう人だけで、そのあとはずっと座ってるだけ。顔見知りも来ているのに、彼ら、他の人と踊ってばっかり……。
(タイトル写真: Photo by Alexandra Slo on Unsplash)
……なんて体験しことないわ、というアナタはタンゴを嗜む女性としては少数派です(きっぱり)。
嫌ですよね~、この「壁の花」状態。ガッカリだけでなく、なんだか侮辱されたような、自分の価値を否定されたような、いろんな感情が入り混じって、負の逆噴射までおこってしまう。……ほらね、男は若くてキレイな女にしか興味がないのよ! なにさここの人たち、内輪で固まってビジターはのけ者なのね😡。
楽しいはずのミロンガ・ナイトを負のスパイラルで台無しにする前に、何とかする手はないかちょっと考えてみよう、というのが今回のお題です。
どうやら壁の花は世界中のミロンガで咲いるらしく、あちこちの人がいろんなことを述べていますが、趣味で踊っているタンゲーラの観点から、という点では Melina Sedó のビデオがとてもよくまとまっているので(でも1時間近くあるので要約して)ご紹介したいとおもいます。
メリーナは20年以上ドイツでタンゴを教えている ベテランタンゲーラで、このビデオではタンゴにおけるエイジズム(年齢による差別)に焦点をあて、特に女性の視点から語っています。ちなみに、このビデオはタンゴDJでもある Lucas Antonisse が YouTubeにアップしているインタビューの一つで、他にもいろんな人が各自の観点からタンゴを深く語っているビデオがたくさんあがっていますので、ご興味の向きはぜひそちらもチェックしてみてください。
誘われないのは若くないからなのか?
まずメリーナはミロンガの現実を自分の体験を含めて率直に述べていきます。
アルゼンチンタンゴを趣味として踊る人たちは、とても若いというわけではない。彼女が教えているヨーロッパのグループでは若い・若くないの境界線は40歳あたり。
ミロンガに踊りに来る人は女性の方が男性より多い。今もリーダーは男性が圧倒的に多いので、フォローのみの女性はさらに踊るチャンスが少なくなる。
人間は知っている人同士、または同じ年恰好の人たちでかたまる傾向がある。なので自然と若いリーダーは若いフォロワーと踊ることになって、若くないフォロワーと踊る確率はずっと低くなる。
当然ながら、ダンスが下手だと申し込まれる確率は低い。
ミロンガでの態度がネガティブだと申し込まれる確率は低い。
ダンスを申し込まれないのは複数の要因がかかわっていることも多い、と彼女は続けます。
「(タンゴを教え始めた)30代のころ、ミロンガでだれも私を誘わない、っていう時期があったの。プロに申し込む勇気が出ない、なんていうこともあったかもしれない。それに当時はまだカベセオなどがよく理解されてなかった、ってこともあるかもしれない。でも(57歳のいま振り返ってみて)若い私のどこかに他の人を拒むような態度、ネガティブな心があったのかも、ともおもうの。今はみんな私にダンスを申し込んでくれるし、(リーダーとして)私も申し込む。だから(ダンスを申し込まれない)原因は人それぞれ。年齢だけで単純に割り切れないとおもうわ」
ミロンガで不満を感じるのは踊れないからなのか
また彼女は女性ならではの視点から不満の構造も分析しています
好むと好まざるかかわらず、外見は女性の方に大きく作用する。それを知っているので、女性は男性より、装いやボディケアに気も時間もお金も使ってミロンガにやってくる。それなのに踊れない、となると「投資」に対するリターンが低すぎて、(普段着でふらりとやってきてどんどん踊っている)男性よりずっと強い不満を感じてしまう。
女性の方がレッスンや練習に熱心なので、男性よりダンスが上手いことが多く、ミロンガではレベルが下のダンサーと踊ることになりやすく、満足感が得られないことが多い。
「投資」かあ。いわれてみればそうですね~。
不満が爆発する前に
こうみてくると、起こるべくして起こったともいえる壁の花問題、何かいい対策はあるのでしょうか? インタビューワーのルカスは、ミロンガのオーガナイザーが女性参加者から、踊る機会が少なかった、とクレームをつけられたり、リーダーが若いフォロワーしか誘わない、と個人攻撃されたりするケースもあって、しょうがないではすまない問題ではないか、とメリーナに問いかけます。難しいけれど、と前置きしての彼女のアドバイスは、
踊りにきた人が知り合いになれる時間・仕組みをつくる。例えば、メリーナのミロンガでは、パーティーが始まる前に参加者全員がハグしあうという「儀式」をする。これだけで、年齢やグループを超えてダンスを申し込む・申し込まれる確率が上がる。
いろいろなミロンガを試して、自分に向いたミロンガを見つける。向いてない(誘われない、疲れる)と思ったミロンガにはストレスがたまるだけなのでいかない。
自分やほかの参加者の現状を冷静にみて、ミロンガ、そしてタンゴに過大な期待を抱かない。
ダンスを練習して上手くなる。結局はコレが一番の解決策かも。
フォローだけでなくリードもする。
どれだけ踊ったかに一喜一憂せず、会話や音楽も含めて楽しむ。
「フォロワーが女性リーダーと踊りたがらない傾向っていうの、特に残念だと思うわ。リーディングのレッスンも取ってがんばってる彼女たちより、そこらの万年初心者の男性リーダーのほうがちやほやされるなんて、やっぱり不公平だと思わない?」
うーん、正論🎯。付け加えると、リーダーの質がミロンガの重要ファクターだという点はオーガナイザーやタンゴ教師の間では広く認識されていて、リーダーだけのレッスン、男性オンリーの自主練などで集中的にリーディングの質を上げる努力をしているコミュニティなどもありますね。あとは、賛否両論ありますが、タクシー・ダンサー(ダンスパートナー同伴でない客のためにオーガナイザーが雇うダンサー)を導入しているところも。
セクシズム、エイジズム、本場崇拝
このビデオでメリーナは他の問題にもふれています。
加齢のもたらす心理的効果は性別で異なる。例えば、高齢になっても男性教師は「マエストロ」として教え続けられることが多いが、女性教師は需要が減ってタンゴを教えるだけだけでは立ち行かなくなり、ヨガなどの他のクラスも取り入れて教えざるを得ないことが多い(それが悪いというわけではない)。
高齢のアルゼンチン人タンゴ教師は「レジェンド」としてありがたがられるが、同じ年代のヨーロッパ人の教師は、ただの盛りを過ぎたダンス教師と扱われがち。
「私は、いろんな年代の人が仲良く踊っているミロンガが好きで、できるだけそういう場をつくろうと努力しているけど、この先自分が70歳、80歳になってもタンゴを踊って楽しめるかどうかはわからない。私にとってタンゴは『期間限定』って面もないわけではないわね」
問題の解決はまず現実を直視するところから。彼女の冷静な視線は自分自身にも向けられている……。メリーナ、どうもありがとう🌹 あなたのアッシュグレーの髪が、まるで後光のようにみえますよ……。
©2025, Rico Unno, CC BY-ND
