私は武器製造に手を染めた
お風呂上がり、娘が言った。
「パパ、折り紙やろう」
私は答えた。
「いいよ」
娘の髪は、まだ濡れていた。
先にドライヤーをする予定だったが、折り紙くらいなら髪を乾かしながらでもできる。
その時は、そう思っていた。
娘は折り紙を持ってきて言った。
「パパ、手裏剣作ろう?折り紙ちぎって!」
手裏剣を一個作るには、通常、折り紙が二枚必要である。
しかし、一枚を半分に切れば、一枚から一個作れる。
使用材料、半減。
生産数、倍増。
原価低減である。
娘は以前、私が折り紙を半分に折り、折り目に沿って手でまっすぐちぎっていたのを覚えていたらしい。
半分に折った折り紙を、当然のように私へ差し出してきた。
しかし、こちらには別の業務がある。
娘の髪を乾かさなければならない。
私は言った。
「今からドライヤーで〇〇ちゃんの髪を乾かすから、パパがちぎるのは難しいなあ。〇〇ちゃんがハサミで切ればいいじゃん」
娘は最近、こども園でハサミの使い方を覚えてきた。
私はハサミを渡した。
娘は半分に折った折り紙を持ち、折り目に沿ってゆっくり切り始めた。
チョキ。
チョキ。
チョキ。
少し危なっかしい。
でも、ちゃんと折り目の上を進んでいる。
最後まで切り終えると、二枚は驚くほどきれいに分かれていた。
私は言った。
「すごい!真っすぐ切れてるじゃん!」
「これなら手裏剣作れるよ!」
「上手に切れるようになったね!」
娘は、かなり得意そうな顔をした。
こども園という外部機関で、技能講習を修了してきたらしい。
私の知らないところで、娘の工程能力が上がっていた。
こういう小さな変化を見つけると、普通に嬉しい。
でも、感慨に浸る時間はなかった。
娘はすぐに次の折り紙を手に取った。
チョキ。
チョキ。
チョキ。
無心である。
私はドライヤーを持ったまま、娘を見ていた。
そろそろ髪を乾かさなければならない。
すると娘が言った。
「パパ!パパは手裏剣を作って!」
「〇〇ちゃんは切るから!」
役割分担が決まった。
娘が材料加工。
父が組み立て。
父の承認を得る前に、生産ラインが立ち上がった。
娘は嬉々として折り紙を切っている。
供給意欲が高い。
でも、その顔を見ていると、
「先に髪を乾かそう」
とは言えなかった。
私はドライヤーを置いた。
そして、手裏剣を折り始めた。
娘が切る。
私が折る。
娘が切る。
私が折る。
供給速度が速い。
こちらが一個折り終わる頃には、次の材料が投入される。
仕掛かり在庫が増えていく。
完全に追われる側である。
紙を切る娘。
手裏剣を折る父。
夕飯を作る妻。
少し離れたところで毛づくろいをするひじき。
家族がそれぞれの持ち場で作業していた。
ただし、私と娘だけが武器を製造している。
急に不安になった。
私は可愛い娘に言われるがまま、武器製造に手を染めてしまっている。
これはコンプライアンス的に大丈夫なのか。
そもそも、何のコンプライアンスなのか。
家庭内コンプライアンス委員会は存在するのか。
そんなことを考えている間にも、娘から次の材料が供給された。
「パパ、次これね!」
引き返せない。
すでに量産体制に入っている。
途中で止めれば、材料加工担当から納期遅延を指摘される。
私は折った。
娘は切った。
娘は時々、完成した手裏剣を並べて数えた。
「いっぱいできたね!」
そう言って、また紙を切った。
需要は確認していない。
販売計画もない。
在庫だけが増えていく。
見込み生産として、かなり危険である。
それでも製造ラインは止まらなかった。
「ご飯できたよー」
妻の声がした。
その瞬間、我が家の手裏剣製造ラインは強制停止した。
完成品を数える。
十八個。
娘は床の完成品を見て、満足そうに言った。
「手裏剣屋さん始めます!」
そして、大きな声で呼び込みを始めた。
「手裏剣いる人ー!」
「手裏剣いる人いますかー!」
製造から販売まで、一気通貫である。
企画。
材料加工。
組み立て。
在庫管理。
店舗運営。
呼び込み。
事業展開が速い。
妻は言った。
「ご飯にしましょう」
手裏剣屋は、開店直後に営業を終了した。
売上はゼロ。
在庫は十八個。
娘の髪は、まだ濡れていた。
