部下から「客に怒鳴られた」と言われたとき、上司がやるべき初動3手順
部下が青い顔で戻ってきて、「客に怒鳴られました」と言う。
このとき、あなたが最初に口にする言葉で、その後の数か月が変わります。
私は元警察官として7年半、交番・機動隊・白バイの現場にいました。
通報を受けて駆けつける側の人間として、何度も同じ場面に立ち会っています。
そこで叩き込まれたのは、順番でした。
2026年10月1日から、カスハラ対策はすべての事業主の義務になります。
手順を持たない現場から先に崩れます。
1. 先にやってはいけない3つ
真面目な管理職ほど、この3つをやります。
①「で、何があったの?」と経緯から聞く。
事実を把握しようとするのは正しいです。
しかし、怒鳴られた直後の人間は、まだ整理して話せる状態にありません。話せないことで「うまく説明できない自分が悪い」という自責が生まれます。
②「まあまあ」と場を収めようとする。
悪気なく出る一言ですが、部下には「この件は大ごとにしない」という意思表示に聞こえます。
以降、報告が上がらなくなります。
③ 本人に対応を続けさせる。
これが、最も危険です。
一度カスハラを受けた人が同じ相手の対応を続けると、次の接触への恐怖が積み上がります。
この3つに共通しているのは、組織の都合が人より先に来ていることです。順番が逆になっています。
2. 初動3手順①|状態を聞く
経緯を聞くのではありません。
対応者の心身の状態を聞く。
最初にかける言葉は、これだけで足ります。
「大丈夫か」
事実確認ではありません。
人の確認です。
声が震えていないか、
受け答えができるか、
手に力が入っているか。
ここを見てから次に進みます。
30秒で構いません。
この30秒があるかないかで、部下がその後も報告を上げてくれるかどうかが決まります。
守られた記憶は、怒鳴られた記憶より長く残ります。
逆もまた同じです。
交番でも同じでした。
通報を受けて現場に着いて、まずやるのは事情聴取ではなく安全の確保です。
話を聞くのは、その人が話せる状態になってからです。
3. 初動3手順②|対応を替わる
次に、対応を止めます。
「ここからは私が承ります」
上位者が交代することには、2つの意味があります。
ひとつは部下を相手から切り離すこと。
もうひとつは、相手に「この件は組織として受けている」と示すことです。
このとき気をつけることが1つあります。
相手の前で部下を叱責しない。
「うちの者が失礼しました」までは構いませんが、その場で指導を始めると、相手に「この会社は突けば内部から崩れる」と教えることになります。
是正は必ず後で、本人だけに。
可能なら、場所も替えます。
フロアから別室へ、代表番号から別回線へ。
周囲の目から外すこと自体が、部下を守る措置になります。
4. 初動3手順③|記録を取る
そして記録です。
ここを飛ばす現場が本当に多い。
記憶は当日中に薄れます。
特に強い感情を伴った出来事は、印象だけが残って具体が抜け落ちます。
「すごい怒っていた」は記録になりません。
その場で書ける項目から埋めてください。
日時(開始・終了の両方)
場所、または対面・電話・メールの別
相手の氏名・連絡先・特徴
言われた内容(できるだけ原文で)
要求の内容
対応者と、立ち会った人
対応の結果
次の予定(折り返しの約束など)
特に言われた内容を原文で残すことが重要です。
「暴言を吐かれた」と要約してしまうと、後から見たときに程度が判断できません。判断は後で誰かがやります。
記録する人の仕事は、判断ではなく保存です。
なお、通話の録音については「事前に伝えるべきか」で意見が分かれます。私は伝える派です。
伝えた瞬間に多くの人は言葉を選び始めるので、
証拠集めより抑止として機能する
からです。
5. なぜ順番が逆だと二次被害になるのか
3つの手順そのものは、どれも特別なことではありません。
難しいのは順番です。
経緯の聴取から入ると、部下は「まず説明を求められた」と受け取ります。守られる前に、評価される。
この一手で、以降その部下は報告を上げなくなります。
そして報告が上がらない組織は、対策を打てません。
相談件数が少ない会社は、カスハラが少ないのではなく、見えていないだけであることが多い。
厚生労働省の調査では、過去3年間にカスハラの相談があったと回答した企業は27.9%で、前回調査から8.4ポイント増えています。
増えているのは件数だけでなく、表に出るようになった分も含まれているはずです。
初動3手順は、部下を守るための手順であると同時に、会社が現場を把握し続けるための手順でもあります。
6. クレームとカスハラを分ける2つの軸
初動を終えたあと、この件をどう扱うかの判断が来ます。
ここで多くの現場が迷うのは、「要求の中身は正しいのに、やり方がひどい」というケースです。
分けて考えてください。
要求の正当性。
返金や交換を求めること自体は、正当になりえます。
一方、土下座や私的な謝罪、担当者個人への金銭要求は、中身そのものが過剰です。
手段の相当性。
伝え方が社会通念上の範囲かどうか。
長時間の拘束、大声や威圧、執拗な反復連絡、SNSでの晒しをちらつかせる行為は、手段が過剰です。
そして重要なのは、要求が正当でも、手段が過剰ならカスタマーハラスメントに該当する可能性があるということです。
「相手の言い分は正しいんだから我慢しよう」という判断が、現場をいちばん痛めます。
厚生労働省の指針が示すカスハラ対策の柱は、
①方針の明確化と周知
②相談体制の整備
③事後の迅速・適切な対応
④抑止のための措置
⑤外部との連携
⑥教育・研修
の6つです。
初動3手順は、このうち③にあたります。
7. その場で止めて責任者へ上げる基準
最後に、現場判断で対応を打ち切ってよい基準を持っておいてください。
判断を現場に丸投げすると、優しい人ほど耐えてしまいます。
暴力・物の破壊、またはその示唆
脅迫的な言動
長時間の拘束(目安として30分超)
同一案件での執拗な反復連絡
従業員個人への攻撃(氏名・容姿・私生活)
SNSへの投稿を材料にした要求
土下座・私的謝罪・金銭の要求
複数名での威圧、退去に応じない
身体の危険が差し迫っているときは、ためらわず110番してください。
「大ごとにしたくない」という判断が、いちばん取り返しのつかない結果を招きます。
安全確保が最優先です。
この基準は、会社ごとに決めて周知しておく必要があります。
基準がないまま「臨機応変に」と言われた現場は、必ず耐える方向に倒れます。
まとめ
初動3手順は、これだけです。
1. 状態を聞く(「大丈夫か」)
2. 対応を替わる(本人に続けさせない)
3. 記録を取る(判断ではなく保存)
経緯の聴取は、そのあとです。
私は元警察官として、交番・機動隊・白バイの現場で、数え切れないほどの「感情的になった人」と向き合ってきました。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント対策は労働者を1人でも雇うすべての事業主の義務になります。
カスハラ対応研修(90分/管理職向け)
外部相談窓口の受託(男女2名体制)
対応方針・マニュアルの策定支援
岐阜を拠点に対応しています。
ご相談は、プロフィール欄、Instagramから
