見出し画像

ジムでナンパはやめちくり

日本から、フィットネス人口が一人減った。

これは、ある女性の体験談だ。

彼女は勇気を出して、ジムへ通い始めた。

トレーニングは未経験。それでも、器具の使い方を覚えながら、一生懸命続けていた。

ある日、トレーニング中に若い男から声をかけられた。

「フォーム、こうした方がいいっすよ。よかったら教えましょうか?」

彼女は、その提案を断った。

ここで終わっていれば、少し距離感を間違えた親切だったのかもしれない。

しかし、後日。
彼女のSNSに、男からDMが届いた。

送ってきたのは、あの男だった。

男は、ジムの公式アカウントのフォロワー欄から彼女を探し出していた。

ジムの中で断られた。
それでも、外から追いかけてきた。

つまり、フォーム指導は建前。
親切心でも何でもない。

筋肉の奥に隠れていたのは、下心だった。


日本から、一人減った

結局、彼女はジムを退会した。

それだけではない。
トレーニング自体をやめてしまった。

ジムへ行けば、また会うかもしれない。SNSまで見つけられたなら、自分についてどこまで知られているのか分からない。

体を鍛える場所だったジムが、誰かに見られている場所へ変わった。

また起こるかもしれない。

その不安が、身につきかけていた習慣を途切れさせた。

そして、日本からフィットネス人口が一人減った。

男は今も、何食わぬ顔で同じジムへ通っているのかもしれない。

失われたのは、一人分の会費だけではない。

彼女が勇気を出して始めた習慣。
ジムは安心して通える場所だという信頼。

フォームについて声をかける、本当の善意まで疑われるようになる。

一人の下心が、そこにある親切までナンパの口実へ変えてしまう。

それは、ジムにとってかなり大きな損失だと思う。


男の本音

同じ男として、正直に言う。

ジムに魅力的な女性がいれば、気になることはある。

自己管理をしている人は、魅力的に見えることも多い。鏡越しに、つい横目で見てしまうことだってある。

テストステロンも分泌される。

私も、周囲の人間が一切目に入らない聖人ではない。

ただ、誰かを魅力的だと思うことと、その気持ちを相手へぶつけることは別だ。

断られたあとも、自分の気持ちを優先して追いかけることは、さらに別である。

こちらにとっては、たった一度の声かけかもしれない。

相手にとっては、それ以降もジムへ行くたびに思い出す出来事になるかもしれない。

気になるのは自由だ。

ただ、断られたら、そこで終わり。
ジムの外まで追いかけない。

筋肉の声より、相手の意思に耳を貸してほしい。


限界まで追い込んでみろ

そもそも、今日は何をしにジムへ来たのか。
一度、大胸筋に手を当てて考えてみてほしい。

私自身、追い込みが甘い日は、周囲へ目が向きやすい。

次のセットまで余裕がある。呼吸も整っている。
まだ、他人のことを考えられる。

そんなときは、大胸筋から声が聞こえてくる。

「まだ、いけるんちゃうか」

限界に近づけば、鏡に映る異性より、自分の顔の方が気になる。

「もう無理だ」

命の叫びが聞こえてくる。息を整え、次の一回を持ち上げることで精いっぱいになる。

ナンパする余裕があるなら、まだ強度が足りない。

もちろん、これは脳筋の暴論だ。

限界まで追い込んだからといって、距離感が身につくわけではない。

本当に必要なのは、ドロップセットでも、スーパーセットでもない。

引き際を覚えることだ。


安心も、ジムの設備である

フィットネス人口が増えることは、うれしい。

初めてジムの扉を開く人が増え、いろいろな人がトレーニングを始める。

ただ、蓋を空けてみたら、増えていたのは男性ばかりだった。それでは、健全なフィットネスの未来とは言えない。

安心して残れる場所でなければ、習慣にはならない。

最新のマシン。
優秀なトレーナー。
清潔な更衣室。

どれも大切だ。
ただ、それ以前に必要なのが、安心だと思う。

誰かに値踏みされていると感じないこと。
断ったあとに、外まで追いかけられないこと。
自分のトレーニングへ集中できること。

安心も、ジムの設備である。
その土台があって、初めて人は通い続けられる。

筋肉を増やす場所で、フィットネス人口を減らしてはいけない。

男でも、女でも同じだ。

ジムで始まる関係も、実際にはあるのだと思う。ただ、片方の安心を犠牲にして始まる関係を、出会いとは呼びたくない。

今日もどこかで、男女は出会う。
ただ、ジムでナンパはやめちくり。

これ以上、フィットネス人口を減らさないためにも。

「じゃあ、逆ナンはいいの?」

逆ナンはさすがに……。
大歓迎です。

大胸筋に手を当てたら、そう返ってきた。

ただし、男でも女でも、断られたらそこで終了。
追い込むのは、自分の筋肉だけにしてほしい。


それでも、ジムには人がいてほしいと思っています。

心がパンプしたら、スキで教えてください。

筋肉の話を入口に、人生のいろいろを書いています。

合いそうなら、フォローしてまた日曜日に読みに来てください。

いいなと思ったら応援しよう!

遠地 陸矢|脳筋エッセイ もし心がパンプしたら、応援チップいただけると嬉しいです。 タンパク質と、次の文章の燃料に変わります!