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【#創作大賞2024】いなくなったきみへ最終話

いなくなったきみへ

前回


epilogue


 本日はご丁寧にお話頂きありがとうございました。

 目の前の女性に頭を下げる。ウルフカットみたいなお洒落な髪型で、スタイリッシュな服装をしている。僕が今まで何枚も集めた写真や動画に映る古河律子の系統とはだいぶ違う。

 こんな人とも友達だったんだな。

 僕は古河律子を追いかけて、随分遠くまで来てしまったらしい。

 「早瀬さんは律子のことを探してくれてるんですよね?」

 冬の終わりを感じさせる穏やかな風の中、テラスの席で彼女が僕に訊いた。

 「どうなんでしょう。古河律子さんのことを知りたいとは思ってるけど、彼女がどこにいるのかは本当はどうでもいいのかもしれない」

 会ったこともないのに知りたいんだ、と笑われる。たしかに会ったことも話したこともないけれど、本当は少し、話がしてみたかった。

 目の前の女性━━川島というその人は春みたいなやんわりとした声で僕に訊いた。

 「どうして早瀬さんは律子のことを調べようと思ったの?」

 不意を突かれて言葉につまる。

 どうして。どうしてだっけ。ベースを弾く鮮烈な彼女が思い出される。その眼が笑いかけて、一瞬ふと泣きそうに色を失う。

 「ちょっと好きだった人の、好きな人が、すごく好きな人だったからですかね」

 「なにそれ。全然わかんなかった」

 川島は意味わかんないと言いながらケラケラと声を立てて笑う。

 「早瀬さんも律子のことを好きな人かと思ってた」

 「ははっ。そうですねー。うーん、どうだろう」

 ぴったりの言葉がなかなか思いつかなくて、喋りながら考える。

 「好きだったのかもしれないですね。あの眼が」

 川島は黙って頷き、続きを促す。

 「僕は小さい頃色々あった家庭で育って。なんか自分だったら、ああいう綺麗で寂しい眼をする人とわかりあえるって思っちゃったのかもな」

 そういう思い上がりであなたのところまで来てしまいました。言いながら恥ずかしくなる。なんて自分本位だろう。対する川島は「そういう人がいてもいいと思います」と優しく言った。

 「私で何人目ですか」

 「えー、どうでしょう少なくとも十人以上には話を聞いてますね」

 「それで、律子のことは何かわかりましたか」

 ノリノリで話す人もいれば、話してくれなかった人もいる。重い口を開け、話せるところだけ、僕に少しだけ教えてくれる人もいた。

 この川島夏希もそうだ。決して全てを話してくれたわけではない、と思う。律子と夏希の間にもきっと僕の立ち入れない聖域みたいなものがあることはちゃんと僕にも伝わっている。

 古河律子、どんな人だっただろう。

 美しく、愛嬌があって、誰からも愛される。だけど━━

 「どこまでも満たされない孤独?」

 愛されてるけど、愛されてない。

 「みんながみんな、理想の彼女を通して古河律子の幻想を愛してる」

 「自分だけが〝本当の古河律子〟を知ってる。〝特別だ〟って思っちゃうんだよね」

 そんな風に僕にいう川島夏希の眼は慈愛と後悔に満ちている。

 「でも、川島さんは自分が特別じゃないって本当の意味でわかってるじゃないですか」

 「そうだね。だけど間違えちゃった」

 川島は口元に指をやり、僕から遠くどこかへと視線を滑らす。

 もし、もう一度律子が泣いて帰ってきたら。

 「その時は私、注ぐんじゃなくてちゃんと一緒に穴を塞ぐことを考えたいなって最近思うの」

 もう何もかも遅いけどね。

 「そんなことないんじゃないですか」

 僕はもしかしたら彼女に出会い、これを伝えるために何週間も走り回ってきたのかもしれない。

 律子がもし帰ってくるなら、会ってくれるなら、間違えた選択をした自分を許してくれるなら。きっとそんなことはどうでもいいのだ。

 「古河律子は待ってるんじゃないですか。何もかも、彼女自身が守ってるものも、全てぶち壊して会いに来てくれる人を」

 川島の頬をつーっと、一筋の涙が伝った。

 手の甲で押さえるように拭って彼女が言う。

 「会えますかね」

 「それはきっとあなた次第な気が、僕はするんですけどね」

 愛されたい。愛されたい。愛されたい。ダメな私を、ズルい私を、あなたが思うよりもっともっと醜くて汚ない私を。

 お前も違う。君も違う。違う。違う。違う。あなたが見てるのは私じゃない。そんな綺麗なの私じゃない。私は、愛されるわけがないんだから。

 誰よりも綺麗で、誰よりも可憐で、誰よりも最低。矛盾を孕んでそれでもまだ、愛されたいと願っている。

 だから、古河律子は美しい。

 いなくなったきみへ。

 ずっと、ずっと満たされないきみは、何が手に入ったら自分は愛されていると信じることができるだろう。

 必死にもがいたその先できみが一人きりで見た景色を僕は知らない。

 でも、僕はここで願っている。

 これから先、きみの目に映る世界が少しでも優しく美しいものでありますように。

 きみがきみを、愛せますように。



《本文ここまで》

最後まで読んで頂いて本当にありがとうございます。このページだけ見てくださった方もありがとうございます。

それからこの作品のヘッダーとして世界観に色をつけて下さったtaiinさん。ありがとうございました。勝手に見守ってもらっている気持ちになって書き切れました。


よかったらアドバイスや感想を頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします🙇‍♀️     rin

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