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20字で名乗る、いまのわたし

つれづれなるままに、自己紹介を考える。
何者でもないような日にも、人はたしかに、その人として暮らしている。
ならば、いまの私は、たった二十字でどこまで私でいられるだろう。


以前、十文字で名乗ってみたことがある。

「本と娘と徒然なる司書」

短いのに、不思議としっくりくる言葉だった。
本があり、娘がいて、司書として働いている。
その十文字のなかには、たしかにあの頃の私がいたと思う。

けれど、十文字は、やはり十文字である。
潔くて、気持ちのよい短さではあるけれど、そのぶん、こぼれてしまうものもあった。

たとえば、本はただ「ある」だけではなく、私にとって心の近くにあるものだということ。
たとえば、娘との暮らしは、慌ただしいばかりではなく、思いがけず光る瞬間に満ちているということ。
たとえば私は、その日々の断片を、ことばでそっとすくい上げたくてたまらない人だということ。

朝はいつも、きれいごとだけでは済まない。
急かす声を出してしまう日もあるし、思うように進まない支度に気持ちがざわつくこともある。
夕方にはくたびれて、ようやく座れたころには、もう一日ぶんの力を使い果たしている。

それでも、その暮らしのなかに、ふいに胸を打つものがある。
娘の言いまちがい。
読み聞かせの途中でのぞきこむ横顔。
本のページをめくる小さな指。
何気ないひとことに、はっとさせられる瞬間。

そういうものに出会うたび、私は思う。
ああ、暮らしというのは、ただ過ぎていくものではなく、ちゃんと書きとめておきたいものでもあるのだと。

だから今度は、二十字で名乗ってみることにした。
十文字より、少しだけ息ができる。
少しだけ、いまの私に近づける気がしたからだ。

そして、いまの私はこう名乗る。

愛しき本と娘との暮らしをことばで紡ぐ司書

なんとか二十字ぴたりに収まった。

「愛しき本」としたのは、私にとって本が、ただ好きなものというだけではないからだ。
疲れた夜に逃げこむ場所であり、迷ったときにそっと灯りをともしてくれるものでもある。
うまく言えない気持ちを、先にことばにしてくれていることもある。
本は、遠いところにある憧れではなく、私の暮らしのすぐそばにいてくれる。

そして「娘との暮らし」。

娘が生まれてから、私の毎日は大きく組み替えられた。
静かに本だけを読んでいればよかった時間は、もうない。
けれどその代わりに、ひとりでは見落としていた景色を、私はたくさん教わった。

しゃぼん玉を流したくなくて立ち止まる春。
同じ絵本を、去年とはまるで違う目で読む夜。
小さな背中が少しずつ頼もしくなっていくこと。
昨日までできなかったことが、今日は当たり前みたいにできてしまうこと。

そういう日々は、にぎやかで、めまぐるしくて、正直、へとへとにもなる。
それでも私は、この暮らしをたしかに愛しているのだと思う。
整っていないからこそ、愛おしい。
思い通りにならないからこそ、胸に残る。

そして、その本と娘との暮らしを、私はことばで紡ぐ

書くことは、私にとって、飾るためのものではない。
その日にあったことを、もう一度自分の手に取り戻すための営みだ。
ただ過ぎてしまいそうだった一日も、ことばにしてみると、そこにちゃんと光があったことに気づく。
うまくいかなかった出来事でさえ、書いてみると、ただの傷ではなく、ひとつの景色になる。

思えば『徒然草』もまた、整いすぎたものばかりを愛でる書ではなかった。
移ろうもの、欠けたもの、思い通りにならないもののなかに宿る趣を、あの文章は静かに見つめている。
その眼差しに、私は昔からどこか惹かれてきた。

暮らしもまた、そうなのだと思う。
完璧ではない。
間に合わない日もある。
思うように書けない夜もある。
母としても、司書としても、書く人としても、私はいつも少しずつ未完成だ。

けれど、その未完成のまま生きている日々のほうにこそ、書き残したいものがある。
きちんと整えられた言葉より、少し揺れている言葉のほうが、いまの私には似合う気がする。

二十字で自己紹介するなんて、簡単そうでいて、案外むずかしい。
削って、迷って、戻して、それでも最後に残る言葉には、その人が何を大切に生きているかが滲む。

十文字では足りなかった私が、
今日は二十字のなかに立っている。

愛しき本と娘との暮らしをことばで紡ぐ司書

いまの私は、たぶん、こんなふうにできている。

喜木 拝

#20字自己紹介

小牧部長、長々と綴ってしまいました💦
ここまでお読みいただき、ありがとうございます💖

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