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癒やしを失ったわたしが見つけた、美容院の新しい楽しみ方

東京に住んでいたころ、おなじ美容院に7年通った。

子どもを預かってくれたり、ノープランでも可愛い髪にしてくれたり、理由はいろいろあるけど、待ち時間の楽しさも大きい。

美容院に入るとまず目につくのは、待合スペースの壁にずらりと並ぶ最新の雑誌たち。

女性向けファッション誌から男性向け、主婦雑誌にママ雑誌などジャンルがとても豊富だった。


席につくとアシスタントさんが3冊くらい雑誌を持ってきてくれる。

あんなにもたくさんの雑誌があったのに「これは読まない……」と思うものが手元に来たことは、7年間で1、2回しかなかった。


雑誌が好きでいろいろ買うけれど、こんなにたくさんの種類はなかなか用意できない。

速読が特技だし、雑誌に関しては興味のない部分を飛ばすので、カラーやパーマの日なら、だいたい10冊くらい読めていた。

ほしいものや、やりたいことが出てきて、明るいわくわくした気持ちになれた。



雑誌を読まずにアシスタントさんや美容師さんと話す時間も楽しかった。

距離感がほどよくって、疲れてうとうとしてたらほっといてくれるし、プライベートに深く踏み込まれるようなこともなかった。

人見知りな性格だけど、男女問わず誰と話しても楽しく待つことができていた。

あのころ、美容院に行くのはわたしにとって癒やしの時間だった。



四国に来てからは何度も美容院を変えている。

こちらに来てからも引っ越しをしているので、それも理由のひとつなのだけれど、変えるときには”きっかけ”がある。

オーダー通りの髪型にならないときだ。

わたしは絶望的にショートヘアが似合わないのだけれど、なぜか気づくとショートになっていた……ということが、いろいろな美容院で何度もあった。


その日は、鎖骨くらいの長さのボブヘアをオーダーした。背中まであるロングから、思い切って短くするつもりだった。

ところが、やけに首元がすうすうするなと思って鏡を見るたわたしは言葉を失った。

耳下のショートになっていたのだ。


セーラームーンの水野亜美ちゃんを少しボーイッシュにしたような髪型だった。

ただでさえコンプレックスのある丸顔が強調されている。

年よりもさらに老けていた。そのころはダイエットをがんばっていて10キロ痩せたばかりだったのに、ひどく太って見えた。


帰りの車で泣いた。

手持ちの服はフェミニンなものばかりで、なにを着ても変だった。

しかも、短いだけではなくて、髪の毛はアシンメトリーで、たくさんレイヤーが入ってもこもこしていた。

調節するために切っていたら短くなりすぎたというのが明らかだった。




少数派なのか、これを話すと驚かれるのだけれど、夫とわたしはずっと同じ美容院に通っている。


10代でお付き合いをはじめたときから、15年以上だ。

遠距離恋愛をしていたときですら、新幹線でやってきた夫といっしょにわたしの住む街の美容院へ通っていた。

これは特に意味がなくて、たぶん、遠距離時代にずっといっしょにいるためだったものが、そのまま適用されているだけなのかもしれない。

そんなわけで、わたしの髪がばっさり切られるたびに、夫も美容院を変えている。


あんなにも長い間通ったのは、東京のその美容院だけなのだ。

ちなみに、そこでは一度だけ自分の意思でばっさり切ったことがあるのだけれど、ちゃんと”似合わせカット”にしてもらえた。


人生唯一のショート成功例




さて、こちらに来てからもうひとつ、楽しみだったものが消えた。

それは”雑誌”だ。


「通いやすい場所か?」をいちばん重視して美容院選びをするようになったので、東京時代のような大きな美容院ではなくて、近場にあり美容師さんが1人か2人しかいないサロンに行くことが増えた。


個人サロンだからなのだろう。
雑誌が豊富にあるわけではない。

困ったのは、その雑誌が好きじゃないジャンルだということだ。


わたしは活字中毒なきらいがあるので、文字さえ読めれば良いのだとずっと思っていたのだけれど、どうやら違うらしい。

「実用的な情報」を渇望しているのだと知った。


置かれている雑誌が、たとえば前衛的なデザインを重視した、とにかくおしゃれなものだったとする。

わたしはさらさらと0.1秒単位でめくり、すぐに閉じてしまう。わたしにとって大事なのは「自分が取り入れられそうかどうか」なのだ。


仮に、買えないくらい高い値段の服が紹介されているとしても、そのデザインが日常に合うものだったら参考になる。

でも、ランウェイを歩くような前衛的なものだと、ファッション大好き!という性格ではないわたしにはあまり楽しく感じられないのだった。


そんなわけで困っていた数年前のこと。
ぽつりと漏らした悩みを、フォロワーさんが拾ってくれた。

『本を持参するのはどうですか?』

その声は意外と多かった。
たくさんの人が、自分で本を持参しているのだと知った。


そうか、その手があったのか。

これまでの人生で、美容院では「人とはなす」「雑誌を読む」の2つしかしてこなかったわたしには、思いつかなかった。



それを知ってから、待ち時間が変わった。

子どもが生まれてからすっかり読む時間が取れなくなっていた”紙の本”を、美容院に持っていくようになった。

それは”積ん読”として置かれていたもののときもあるし、行く前に書店に寄って買ったり、図書館で借りたりすることもある。

あとは、図書室からピックアップしていくことも多い。


娘が生まれるまで、毎年 ”よしもとばなな期” があった。
#なんのはなしですか


家にあるよしもとばななさんの本を、毎年くり返しくり返し読んでいたのだ。

一度読むと満足してしまうタイプなので、とてもめずらしいのだけど、よしもとばななさんの本なら何度でも読める。

そして、何度読んでも違った発見があるし、楽しめるし、文章の美しさにうなる。
年齢を重ねるごとに見えるものが変わっていく。



つい最近、120日ぶりくらいに髪を染めた。

その日は『王国1 ─アンドロメダ・ハイツ─』を持っていった。

何十回も読んでいるのに、夢中で読んだ。
終わる前に読み切ってしまって「2」も持ってくればよかったと後悔したのだった。

旬の雑誌を読めないのは残念だったけど、新しい楽しみが見つかった。



(2,500字)


追伸、
あなたの美容院のエピソードも、ぜひ教えてください。話すのは好きですか? なにをして待ちますか?


▼最近書いたはなし。お嬢様と出会ったわたしは、童話の床屋になってしまった。

▼最近書いたコラム(有料)。自衛のためにしていることだけど、創作にも役立つ。



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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡