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じっちゃの呪文「ごまさかだいじんちゃ」

祖父はよくメモを取る人だった。

好きなものは川柳と健康情報。
弟とは将棋やオセロを楽しみ、私には川柳やノートの書き方を教えてくれた。

すこんと忘れていたけれど、そのときの経験が、今の私を大きく形作っているのかもしれない──と、ノート術の本を出したり、小説で受賞したりした過去を振り返って思う。




「凛花さん、野菜も食べねばまいねなきゃ駄目だよ」

祖父はなぜか私のことを「さん」付けで呼んでいた。そして、偏食だった私にこんなことを言った。

「大事なのは、"ごまさかだいじんちゃ”だはんでな」

「……じっちゃ、何の話?」

私が尋ねると、祖父は目尻をゆるめて「健康さなる呪文」と言う。

「これ、健康さ良いって食材なんだど。ごま」

「ごま?」

「さかは、魚。大根に、にんじん。それからお茶。語呂合わせさすれば、忘れねべ?」

祖父は手もとのノートに書きつけた。




「ごま・さか・だい・じん・ちゃ」





あれから30年近い月日が流れても、私は、じっちゃの呪文を忘れていない。




私も家庭を持ち、2児の母になった。
ふたりとも私に似たのか、好き嫌いは少なくない。

今年になってダイエットやお弁当づくりをすすめるうちに「健康的な食事」をもう少しがんばりたいなあと思うようになった。

ずっと気になっていたのが鉄不足。
家族が食べるものには、鉄分があまり含まれていなくて……。


とりあえず電子書籍で本を5冊ほど読んでみた。

概論からレシピまでいろんなものを読んだうえで、とにかく「鉄を含む食材」を意識して取り入れていくことと、足りない分はサプリで補うのもありだということがわかった。

鉄を含む食材は、どの本を読んでも共通しているので、すっかり覚えてしまった。意外とこれまでにも食卓に出してきたもの──納豆や卵、小松菜にツナといったものたち──にも多く含まれているようだ。

でも、ずっと記憶は続かないだろう。
むりなく取り入れるための作戦を考えていく。

まず、大事なこと。
結局のところ、すべての「鉄分が豊富な食材」を取り入れることはうちではできないのである。みんなが偏食だから。鉄分食材の中から「わが家に合うもの」を選別していく必要がある。


そこで、こんな方針を立ててみた。


加工食品を使った鉄貯蓄。
たとえば鉄分入りのヨーグルトや、鉄入りのウエハース。これまでもたまに買っていて、子どもたちも好きなので意識して買うようにする。

サプリメントを使うこと。
読んだ本には、サプリメントを価格や鉄含有量などでマトリクス図にしたものや、おすすめのサプリを紹介しているものもあったのでそちらを参考に。以前買っていたグミサプリはとても手軽だった。

そして、自炊で「鉄分食材」を積極的に使うこと。


きょうの晩ごはん。

写真:©三條凛花

左から、
・筍、あさり、揚げの炊き込みごはん(茗荷のっけ)
・うずらの味玉
・切り干し大根ときゅうりの青のり和え
・厚揚げのそぼろ炒め(芹のっけ)
・卵とわかめのスープ


牛肉や卵、小松菜、ツナ、ドライフルーツなど、すでに取り入れられているものもたくさんある一方、「鉄分食材だ」とわかっているのに買い忘れるものも多いのである。

スーパーに行ったとき手を伸ばしやすいように、「これはなるべく買おう」というものを丸暗記できたらいいなと思っている。


でも、覚えられない……。
そんなとき、じっちゃの「呪文」を思い出した。でも良いものが思い浮かばない。AIに投げてみたらこんな回答が来た。


いいラインナップだね、かなり“実戦向き”の鉄分メンバーたちだよ。じゃあ、この10人を一気に脳内に住まわせる合言葉、ちょっとリズム重視でいくね。

「あさパツごえだ、あつこまこし、うずあお」

なんか呪文っぽくてクセになるでしょ。口に出すと意外とスルッといくタイプ。

対応はこんな感じ:あさ → あさり
パ → パセリ
ツ → ツナ
ご → ごま
えだ → 枝豆
あつ → 厚揚げ
こま → 小松菜
こし → こしあん
うず → うずら
あお → 青のり

“実戦向き”の鉄分メンバーとは。

うーん……。
うん。




数が多すぎるのかもしれない。
6つにしてみた。


いいね、このメンバーは“ちょい地味だけど実力派の楽団”みたいで愛着わく。語呂、リズム重視でいくつか投げるね。口に出して気持ちいいやつを選んでほしい。

まずはシンプル呪文系:

「あさえだパこし、うずあおさく」
(あさり・枝豆・パセリ・こしあん・うずら・青のり・桜えび)

ちょっと跳ねる感じ:

「うずさくあお、あさパえだこし」
前半が軽やかで、後半でどっしり回収するタイプ。

もう少しまとまり感あるやつ:

「さくあおうず、あさえだパこし」
“さくあおうず”の音がなんか小動物っぽくて覚えやすい。

五七五もいくね:

「あさり舞い
えだまめころり
さくあおうず」


ちょっと情景寄り:

「うずら鳴き
さくらえび舞う
あおのり香」

(パセリ・枝豆・こしあんは“影のレギュラー”として別で覚えてもOKな設計)

跳ねる感じとは。


なんだろ。
しっくり来ない……。




最終的にこの7つで、そして、自分で考えることにした。

意味はないけど覚えやすいものを考える。

あさり、パセリ、枝豆、こしあん、うずら、青のり、桜えび




青うずら
桜の枝に
朝こし……パ?



いやいやいや。パセリ。パセリがむずかしい。

AIが言うように、語呂合わせに入れるなら「パ」になってしまう。「パ」になると途端に違和感が出てくる。

パセリ、パセリ……。和名はなんていうのだろう。検索してみる。パセリの和名は「和蘭芹(オランダゼリ)」だった。


そこでふとひらめく。

もしかして「芹」も鉄分食材だろうか? 私は芹がとても好きで、見つけるとすぐに買ってしまう。今日も食べたばかりだった。


写真:©三條凛花

芹とくるみと鰹節とツナの醤油味おにぎり。


調べると、芹にもたくさんの鉄分が含まれていることがわかった。「パセリ+芹」でまとめて「せり」でいこう。

こうして、この五七五が最終版になった。


青うずら
桜の枝に
朝こせり



この呪文、30年後も覚えていられるだろうか。


私はじっちゃが思考を重ねているようすを見るのが好きだった……かもしれない。

「ごまさかだいじんちゃ」だって、AIが考えたらきっと違うものになるのである。人が考えることにも、まだまだ意味がある。そんなことを思う。

でも同時に、もしじっちゃがAIを知ったら、遊びそうだなあと言う気もする。新しいものも好きなひとだった。




食べものにとても気を遣っていたじっちゃは、足腰もじょうぶだった。
80を超えても病気一つしなかった。

私の曾祖母ふたりは104歳、祖母は96歳まで生きている。そんな超長生き家系のわが家なのに──じっちゃは80代で人生の幕を下ろした。

あの事故さえなければきっと、今でも生きて100歳を超えていたかもしれないと、そう思ってしまうのである。

私はきょうも車を運転できずに、片道20分歩いてスーパーへ向かった。






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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡