死をよぶ五つ葉のクローバー
公園などに行くと、子どもたちと四つ葉のクローバーを探すことがある。
「ママのさー、幼稚園すごかったんだよ」
私はひたいの汗をぬぐいながら言う。四つ葉探しはすっかり諦めて、白詰草で不格好な花冠を編みながら。
「園庭の一面にクローバーがあってさ。四つ葉だけじゃないの」
「何の話?」
子どもたちが怪訝そうな顔をする。
「五つ葉、六つ葉、最高記録はなんと七つ葉」
「えー! やば!」
─*─
そこは、引っ越しで短期間だけ住んでいた街だった。
家から幼稚園まではかなり距離があったけれど、母も車を運転しない人だったので、歩いて通った記憶がある。商店街を抜けて、橋を渡る。見下ろすと名前のわからない水鳥たちがいて、水面がきらきらと光っている。
園庭がどれほどの広さだったのかも、どのあたりにあったのかも、今となってはもう思い出せない。
仲良しの女の子と男の子がひとりずついて、いつも3人で手をつないで園庭に駆け出しては、クローバーを探していた。
でも、同時になにかもやもやとした黒い記憶が蘇ってくる。なんだっけ。五つ場のクローバーって、なんだか不吉だったような。
─*─
考えているうちにふと思い出した。本だ。図書室で借りた本だったのか、父が買ってくれたのかすら覚えていないけれど、子ども向けの本で、五つ葉のクローバーが不幸だという話があったのではないか。
気になるけれど、思い出せない。
そこで私はchatGPTをひらいた。自分が小学生だった年代、児童書であること、ホラーみがあること。これらを入力したところ、ぽん、とこんな答えが出てきた。
かなり有力なのは、1996年の怪談アンソロジー
『学校の怪奇ファイル』
に収録されている「死をよぶ五つ葉のクローバー」かもです。
記憶のピースと結構合っていて、時期がど真ん中
児童書寄り
“五つ葉のクローバー”
ちょいホラーというより「学校の怪談」系の不穏さ
タイトル自体に五つ葉が入っている
「五つ葉を摘むと悪いことが起こる」という内容
……という一致率が高いです。
あと、もしあなたの記憶が
「単行本1冊」ではなく
「学級文庫にあった怖い話シリーズ」
系なら、かなりこの線が濃い気がします。あの時代の児童ホラーって、表紙が妙にポップなのに中身だけ湿った廊下みたいに冷えてるんですよね……。
タイトルで検索した私は、はっとした。見覚えがある表紙だ。間違いない。図書館でさっそく借りてみる。
この本を読んでいた当時のことが思い出された。
たぶん、日曜日の昼下がりだったのだと思う。ベッドに寝そべってこの本を読んでいた記憶がある。ブラインドのすき間からこぼれてくる外の光の気配だとか、目に入る本棚は、埃が積もっていないところと積もっているところがあることだとか。
たまに目が疲れて外を見ると、ずうっと遠くにぼんやりと水平線が見える。
─*─
私は午後が苦手だ。ねむたくって、身体が重だるくって、なにもしたくなくなってしまう。頭が痛いことも多い。
今日もまさにそうだった。
午前中にねむってしまい、午後もぼんやりしたまま仕事などを進めていた。子どもたちには「15時になったら図書館行くよ」とだけ告げてあった。もう準備もしんどくって、めがねにほぼノーメイクの状態で家を出る。
半袖のワンピースでも、じりじりと照りつける太陽のせいでずいぶん暑い。
図書館に着いた私は、さっそく、『学校の怪奇ファイル』を調達した。なつかしい表紙だ。間違いなかった。
これは児童向けのホラーアンソロジーなのだけれど、『死をよぶ五つ葉のクローバー』はそのはじめに収録されていた。うっすらと霞がかった記憶のせいで、新鮮なきもちで読み進めていき、結末に唸らされる。
しかも、子どもの頃は怖さだけを感じていたけれど、大人になった今は別の意味で面白かった。
これを読んだころはたぶん、小学校低学年。私はまだ物語を書いていなかった。小説を書くようになった今読むと、これはすごく秀逸な短編ホラーだ。
それこそ、数十年が経っても記憶に引っかかっているくらいには。
五つ葉のクローバーというモチーフの強さ。
ちょっと雑学感のあるわくわく感。
主人公の魅力や淡々と語られる切なくて哀しい描写。
伏線。
そして、その結末──。
一瞬で読み終えられる短い話なのに、なぜこんなにも記憶に残っているのかがわかる気がした。
子どものころに読んでいたものを改めて読んでみるというのは、すごく新鮮な発見がある。ほかにどんなものを読んでいただろうか。
記録がないのがとても惜しい。
─*─
日が傾いてきても、図書館のテーブルに親子3人で向かい合ってそれぞれが本を読んでいた。
息子は1冊終わるごとに「ひま」と言ったけれど、娘は好きなシリーズをどんどん読み進めている。
今読んでいる本のうち、大人になっても覚えていられるものはいくつあるだろう。
近ごろはさぼっていた、子どもたちの読書通帳を、改めてつけよう。
隣接した窓から降りそそぐ金色の光の中で、そう思った。
(2,000字)
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▼5月に書いた企画概要です。ここからすこしだけルールを変更していますが、だいたいは同じです。
▼エッセイの設計図・発想法をまとめました。
▼テキスト版 6月お題
紫陽花 青梅 いぬ 水たまり 蜘蛛の巣
かご 蜻蛉 はさみ 窓 切符
あめ 洗濯物 (空欄) 鍵 曇天
靴下 図書館 傘 氷 かえる
麦茶 段ボール 公園 石鹸 蛍
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