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もし、この子がエッセイを書くなら

大人になった娘が「ゴールデンウィークの思い出」についてエッセイを書くなら。きっとこの毎年の習慣が真っ先に浮かぶ。

──打ち寄せる波の、ぶくぶく立った泡を眺めながらそんな事を考えていた。


ゴールデンウィークは毎年、吉野川に潮干狩りへ行く。

おとなり徳島県にある、とっても広大な川。橋のふもとに、潮干狩りスポットがあるのだ。

ナビを入れなくても、もうなんとなくわかる。

「この橋だっけ?」
「いや、もうちょっと向こうじゃない?」

「曲がるんここやっけ」
「あ、そうそう。ここだ」
「アオサギ! アオサギ!」

そんな会話が、車内でくり広げられる。




昨日、物入れの奥から、蓋付きの赤いバケツを取り出した。ふだんなら絶対に選ばない鮮やかカラーのこれを使うのは、年に1度だけ。
中には、熊手とスコップが入っている。しかも椅子代わりにもなる。これは潮干狩りセット。車に乗せて持って行く。

バケツは最低でも2つ。
道具を入れるもの。あさりを入れるもの。汚れもの用にもうひとつあると最高。



服装は悩ましい。毎年の試行錯誤を経て、長靴に100円のレインズボンという出で立ちに落ち着いた。

これなら汚れずに済む。今年は汚れる前提で適当な服を着るのではなく、ちょっときれいめのTシャツに、淡いブルーのワイドデニムを選んだ。

たいてい、帰りに「ゆめタウン」で食事をして帰る。(貝のためには保冷グッズをたっぷり)

このままだとちょっと寂しい。
GUのチュールワンピースを重ねて、淡いくすみカラーのキャップをかぶり、細身のしゃらしゃら揺れるゴールドのイヤリングも付けてみた。

これは全部”取り外し可能”だから、潮干狩りスタイルのときには外してしまう。

子どもたちは水着にクロックス、夫は普段着にクロックス。
長靴とレインズボンを提案したものの、誰も受け入れてはくれなかった。

それから、夏のプール三昧のときにもうれしい、水陸両用の帽子。つばが広めで、紐がついてて、飛ばされない。




最初に吉野川に行きはじめたころは、道具もなかったし、なにを準備すればいいかわからなくって、準備にものすごーく時間がかかっていた。

今回は違う。6時台に出発するというのに、昨夜は眠気に抗えず寝てしまった。ひやひやしながら起きた。

でも、すぐに冷蔵庫から人数分のペットボトルのお茶を出してバッグに入れた。保冷剤はアルミバッグへ。潮干狩りセットとバケツは昨夜のうちに車に積んであった。

毎年の工夫がすこしずつ積み重なっていく”時短”が好きだ。去年より今年、記憶が上書きされて、より良くなっている感じが誇らしい。


※タオルの存在すら忘れており大惨事だったことはひみつ。



浜辺に降りると、普段と違って川がぐっと広かった。

潮干狩りは、「干潮時刻」を調べることからはじまる。
干潮の2時間前から干潮までがタイミングなのだ。


このGWは、なかなかタイミングの合う干潮時刻に恵まれなかった。干潮時刻を過ぎたくらいにやっと到着したので、今までにないくらい近くまで、水が迫ってきていた。
それでも家族連れはとても多かった。

ずっと遠くまでまっすぐに伸びる橋には、絶えずバスや車が行き交っている。自転車を並べて走る人も見える。

気持ちいいだろうな。

四国の素敵なところは、日帰りで気軽な小旅行ができるところだ。とくに、香川から徳島まではあっという間についてしまう。愛媛や高知も日帰りできるけれど、場所によっては関西に行くほうが近かったりする。



「ぜんっぜん、いない」

娘が頬をふくらませる。

「もっと深いところまで掘らんと、おらんよ」

夫は毎回ひとりだけ、たくさん穫るのだ。

「こっちの熊手は、貝がおったら、ガリってするからわかりやすいんよ。こっちにする?」


夫は、刃の間が網目状になっている熊手を娘に渡した。


エメラルドグリーンの水面は穏やかに波打っている。吉野川の下流。海に近いところだから、潮のにおいはあまりないものの、水には海水特有のあのべたつきが少しある。

少し前まで、ただ水をばしゃばしゃさせたり、泥を掴んだりしていただけの息子は、スコップを使ってたくさん穴を掘り、いくつも貝を見つけていた。


1週間前に寝込んでいたせいで、ひどい腰痛のあったわたしは、かがむたびに腰が怪しくって、すぐにギブアップ。
みんなが掘ったり、途中から遊びはじめて、波から”採掘場”を守るバリケード作りに熱中したりしているのをぼうっと見ていた。


「ぎゃー」

子どもたちが悲鳴をあげた。一生懸命つくったバリケードが、高めの波で一気に崩れてしまった。
ぐわんぐわんと何度も打ち寄せてくる。


「あー……船のせいか」

夫が言った。

ほんの少し前に、小さな船が目の前を通っていったのだった。通り過ぎたあとに、その余波が来たのだ。



そのうちみんなはバリケード作りに夢中になり、わたしはデジタルデトックスしながらぼうっと日向ぼっこしているだけになった。


でも、こういう時間こそが幸せなのかもしれないと思った。




(2,000字)


あさりは、バター酒蒸しにしました。


▼家族のエッセイいろいろ。





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三條 凛花 最後までお読みいただき、ありがとうございます♡