正義を貫く覚悟はあるか3
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「さあ、食べましょう」
烏鷹さんに促されて、私はさっそくテーブルに並べられた料理を取り皿に盛る。白身魚のカルパッチョ、生ハム、鮮やかなサラダなどいろんなお料理があって、美味しそうだ。
「サルーって、乾杯って意味だっけ」
今さら鮗さんが私に呟く。
「そうですよ」
「サルーグローバルって、変わった名前だと思ってたんだよね」
「いや、クルパノドンだって十分変わった社名ですよ」
私は白身魚のカルパッチョを口に運ぶ。冷たくて、柑橘系のソースがさっぱりしている。
「美味しい!」
「でしょう」
烏鷹さんは満足そうな顔をする。私は、食べることも飲むことも大好きだから、烏鷹さんみたいなタイプの人にはとても気に入られやすいと思う。
「白ワインがあうかな、と思うんだ。今持ってくるね」
烏鷹さんは立ち上がり、キッチンへ行く。ほかの三人はダイニングで食べ物をつまみながら立食している。
「社長、ワインですか?」
小林さんがすぐに気づいて烏鷹さんのほうへ向かう。
「白があったよね?」
「フランチャコルタ・ブリュットありますよ」
「ああ、それがいい」
小林さんは冷蔵庫の横にある棚からワインをひとつ出し、烏鷹さんに渡す。ワインセラーらしい。烏鷹さんがワインを、小林さんがワイングラスを持ってソファに来る。小林さんがグラスをテーブルに並べる。
「これ、すごく美味しいワインだから、ぜひ」
そういってワインを開けて、注いでくれる。
「ありがとうございます」
私は、グラスを受け取り香りを嗅いだ。
「鮗くんも、どうぞ」
鮗さんはグラスを受け取り「ありがとうございます」と言った。香ったあとに少し口をつける。
「ミネラルの風味と、爽やかな酸味が上品に絡み合って、非常に美味しいです」
鮗さんは、もぞもぞと感想を述べた。
「おおお、鮗くん、わかっているね」
どうやら、コミュ障鮗は、烏鷹さんに気に入ってもらえたらしい。
インターホンが鳴る。
「注文してたやつじゃないですか?」
小林さんが玄関ドアのほうを見る。
「そうかもしれない」
「私、受け取ってきますよ」
扇さんがインターホンをとって何か話している。
「やっぱりデリバリーです。私行ってきますね」
「俺も行こう」
扇さんが部屋を出ていくと、烏鷹さんもすぐに追った。まだ食べ物が届くようだ。
「ガーリックシュリンプ来ました~」
すぐに二人が部屋に戻ってくる。持っていた箱をダイニングテーブルに置き、蓋を開けて、プラスチックの容器を取り出した。容器の蓋を開けると、香ばしいガーリックの香りが漂ってきた。
「美味しそうな匂い!」
「ここのガーリックシュリンプ、すごく美味しいから、ぜひ食べて」
烏鷹さんが言うから、私は「はい」と返事をして、ダイニングテーブルへ近寄る。容器をのぞくと、プリンとした大きな海老に、フライドガーリックとパセリのような緑色の葉が載せてある。
「わあ、美味しそう」
「食べましょう!」
扇さんが容器から二つの皿に海老を移す。ダイニング用とソファ用に分けてくれているようだ。
「ありがとうございます」
私は皿を受け取り、ソファのほうへ持っていった。
「良い香りだね」
鮗さんも少し顔面の硬直が溶けてきている。
「いただきましょう」
私はさっそく一つ口に入れる。熱々だ。弾力のあるぷりぷりの海老で、オリーブオイルとガーリックの香りが口いっぱいに広がる。
「美味しい!」
「だろう?」
烏鷹さんは嬉しそうに言いながら、自分でも一つ海老を食べる。
「やっぱりここのガーリックシュリンプはうまいなあ」
そう言って、ワインを一口飲んだ。
「鮗さんも食べてくださいね~」
扇さんが色っぽい声を出す。まだ鮗さんと仲良くなることを諦めていなかったようだ。
「もう、扇さんったら、恥ずかしい」
立食のまま海老を食べようとしていた月見里さんが苦笑する。
「クルパノドンは順調みたいだけど、そもそも鮗くんと鈴木ちゃんが一緒に仕事をするようになったきっかけって何だったの?」
烏鷹さんが話す。
「鮗さんは、大学の先輩なんです。それで、鮗さんが一人でSaaSのプログラムを作るサークルみたいなことをやっていて、それがすごくレベルの高いものらしいって噂があって、私がSaaSに興味があったのでそのサークルに顔を出したのがきっかけですね」
「鮗くんは……」
烏鷹さんが話しながら少しせき込む。
「失礼。鮗くんは、どうしてSaaSに……」
また烏鷹さんが話の途中に口をおさえて、ごほんと咳払いをした。
「失礼。ちょっと」
静かに立ち上がった。
「社長、お水いりますか?」
月見里さんが烏鷹さんに水を渡す。
「ああ、ありがとう」
烏鷹さんが会話を中断して席を立つことは珍しい。
「ご気分悪いんでしょうか」
私は鮗さんの横に座る小林さんに声をかける。
「最近、会食が立て込んでいたからですかね。元気が何よりの取柄の人だから、大丈夫だと思いますよ」
小林さんは穏やかに笑った。
烏鷹さんは月見里さんから受け取った水を飲んで、首をかしげながら胃のあたりを触った。
「社長、大丈夫ですか?」
扇さんが声をかける。
「大丈夫、大丈夫」
烏鷹さんは、少し顔色が冴えないように見えた。兄貴肌の人は、自分の体調が優れなくても、なかなか口に出さない人が多いように思える。今日は早めにお暇したほうがいいかもしれないな、と思った。鮗さんは、烏鷹さんのことをじっと見ている。
「どうかしました?」
「顔色が良くないな、と思って」
「そうですよね。私もそう思いました。今日は早めにお暇しましょう」
「そうだね」
烏鷹さんは、ソファに戻ってきた。
「すまないね。それで、何の話だったかな……」
烏鷹さんは顔面に汗をかいていた。
「社長、汗すごいですよ。大丈夫ですか?」
さすがに、小林さんも心配する。
「ああ、大……丈夫……」
そう言いながら、グラスを持とうとした手が激しく震えていた。
「烏鷹さん!」
私もいよいよ心配になり、声をかける。烏鷹さんは、もう「大丈夫」と返事はしなかった。
激しく手を震わせながら立ち上がり「うっ……うっ」と言葉にならない呻きのような音を発しながら前かがみになり、震える手で口元を抑えると、その手の、指の隙間から溢れるように吐いた。
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