【第3話】看護師の私が医療経営コンサルの転職に挑戦したけど、結局「現場」で働くことを選んだ理由
前回の第2話では、私が現場側から見てきた医療コンサルの話を書きました。
「これ、私のほうができるんじゃないか」
そう思った私は、医療コンサルへの転職を決意します。
▼ 第2話はこちら
働きながら、2ヶ月間の転職活動。
結果だけを先に言うと、こうなりました。
書類選考:8社中8社、全通過
1次面接:8社中6社が通過
2次面接:6社中3社が通過
最終面接:3社中2社が残った
「看護師からコンサルへの入り口」は、思っていた以上に開かれていました。
しかし、最終面接まで進んだ会社に私は思いもよらない決断を下しました。
この記事は、医療コンサルの面接という「外の世界」で痛いほど打ちのめされ、最終面接で出会ったある面接官との対話を通して、「自分が本当にやりたい仕事」に気づくまでの記録です。
同時に、医療現場で積み上げてきた経験が、外の世界でどう評価され、どこまで通用したのか。その実感を、できるだけ正直に書きました。
他業界への転職を考えている医療従事者の方、キャリアに迷っている方に、少しでも参考になれば嬉しいです。
書類は、8社すべて通った

まず、書類選考のことから書きます。
応募したのは、コンサルティングファーム6社と、医療系・他業界系のベンチャー2社。
そのうち書類選考に通ったのは、8社すべてでした。
振り返ってみると理由ははっきりしています。
私は、看護師の業務を「ビジネスの世界に伝わる言葉」に翻訳する作業を、職務経歴書の中で丁寧にやっていました。
今後、一般企業でも通用する看護師の履歴書の書き方についても記事にしたいと思っています。
書類選考は、まだ「文章だけの勝負」です。 看護師の業務を伝わる言葉に変える力さえあれば、十分に通る。 これは、転職を考えている医療従事者の方にお伝えしたいです。
ただし、書類が通ったからといって、面接で勝てるわけではなかった。
そこからが本当の戦いでした。
1次面接:8社中6社が通過
1次面接は、人事担当者との面談が中心でした。
質問内容は、
志望動機
これまでの経歴
なぜコンサルを目指すのか
自分の強み・弱み
逆質問
といった、比較的オーソドックスなもの。
ここは、看護師として培ってきたコミュニケーション力で、ある程度通過できました。
医療現場で日々、医師・患者・家族・他職種と話してきた経験は、1次面接レベルでは確かな武器になります。
問題は、2次・3次面接からでした。
当たり前ですが、奥に進むほど、壁が高くなっていきました。
「コンサル面接」の対策をしていなかった
最初に受けた第一志望の会社の2次面接でした。 相手は人事担当者ではなく、募集されていた部署のリーダー。
その人が見ているのは、
「この人を、自分のチームに入れたとき即戦力になるか」 という、極めて実務的な視点でした。
最初のアイスブレイクが終わり、リーダーは私の自己PRを一通り聞いたあと、こう聞きました。
「〇〇さんの趣味は何ですか?」
なんで趣味なんか、と思いました。
「スーパーを巡って、お買い物をすることです」
笑顔で答えました。
「どこのスーパーが好きなんですか?」
なんで趣味を深掘りされるんだろう。
「ライフが好きです。プライベートブランドが充実していて、新商品を見つけて他の商品と比較することが楽しみです」
ここまで私は完全に油断していました。
その時、面接官の目がキラーンッと光った気がしたんです。
「では、どの店舗でもいいので、その店舗の年間売上を予想してみてください」
……え?
頭の中が、完全に真っ白になりました。
年間売上ってどうやって予測できるの?
客単価×客数で計算する?
そもそも、その「客単価」をどう想定する?
頭の中で、いろんなものが空回りしました。
看護師の面接では絶対に出てこない種類の質問。
何かを問われているのは確かなのに、何を答えれば正解なのかが見当もつかない。
結局、私は適当に数字を言いました。
「えっと……押上店では年間で30億円くらい、でしょうか?」
この時 「あ、面接落ちたな」 って思いました。
(涙)
面接官は、軽く頷いて、何も言いませんでした。
その「何も言わない」が、一番怖かった。
そして、追い打ちのように、次の質問が来ました。
「2の10乗はいくつですか?」
——え? 暗算の問題?
私はまた、固まりました。 「2×2×2×……」と頭の中で数え始めたものの、先ほどの質問にうまく答えられなかったことを引きずり、混乱して、答えるのにかなり時間を要しました。
(正解は1,024)

面接後に、思ったこと
面接が終わって、聞かれた質問の内容をパソコンで調べながら、私はずっと考えていました。
さっきのは、何だったんだろう。
調べてわかったのは、スーパーの売上を聞かれたのは、フェルミ推定という、論理的に数字を組み立てる思考力を見るための質問でした。
2の10乗を聞かれたのは、ケース面接の基礎的な数値感覚を確認するための質問。
どちらも、コンサルティングファームの面接では定番中の定番でした。
知らなかった、、、
私は、看護師の世界の面接対策しか、知らなかったんです。
——ここで、他業界への転職を考えている医療従事者の皆さんに伝えたいことがあります。
他業界には、その業界独自の「面接の文法」があります。
医療現場でそれなりに上手く振る舞える人でも、それを知らなければ、最初の数十分で振り落とされる。 逆に言えば、その文法さえ事前に学んでおけば、勝負の土俵には立てるということです。
そして私は、もう一つ大切なことを学びました。
「第一志望は、面接慣れしてから受けるべき!」
最初の数社は、練習だと思って臨んだほうがいい。
このシンプルな鉄則を、私は1社目の2次面接で痛い思いをして学びました。
1社目で玉砕したあと、私は方針を変えました。
「もう、面接の練習だと思って、いろんなところを受けよう」
最終的に受けた8社の内訳は、こんな感じです。
コンサルティングファーム(医療経営系):4社
コンサルティングファーム(医療従事者に特化した人材系):2社
農業経営ベンチャー:1社
不動産コンサルティング会社:1社
最初は「医療コンサル」だけを狙っていたはずなのに、気づいたら農業や不動産まで受けていたんです。
でも、これがよかった。
畑違いの業界を受けたことで、面接で対話する中で自分が医療のどこに惹かれているのか、見えてきたんです。
外を見ることは、自分の輪郭を知ることでもあります。
コンサルって看護師より激務かも
いろんな面接官に会いました。
全員がそうだったわけじゃないけど——3人くらい、心配になるくらい目の周りにクマがある人がいました。
目の下に、くっきり。
笑顔も、なんか無理してる。
極めつけは、ある会社の20時開始のオンライン面接。 時間になっても誰も来ない。
10分くらい経ってから、ようやく面接官が入ってきて、こう言いました。
「すみません、ミーティングが長引いてしまって」
20時までミーティング。
そのあとの、面接。
医療現場が激務だってことは、もう骨身に染みてます。
でも、目の前の面接官を見ていて、思ったんです。
「看護師より残業してるのかもしれない…」

ついでに、年収の話もしておきます
医療経営系のコンサル、私が受けたところはどこも、
営業未経験スタートで、年収400〜600万
しかも固定残業30〜35時間込み
でした。
病院勤務や自費クリニック勤務より低い年収。
もちろん、コンサルは実力主義の世界。
頑張れば1000万以上を目指せる仕事でもあります。
ただ、始めたてはむしろ年収が下がります。
未経験ですから当たり前です。
最終面接まで進んだ2社への「決断」
2次面接まで進んだ3社のうち、1社が落ち、2社が3次面接(最終面接)に進みました。
そのうち1社は、最終面接の場で、採用結果が出る前に、私のほうから辞退の意思を伝えました。 もう1社は、内定をいただいた上で、辞退しました。
つまり、最終的に私が選ばなかったのが2社、という結果です。
ここで書きたいのは、最終面接でその場で辞退を決めたほうの会社の話です。 あの面接で起きたことが、私のキャリアを大きく変えました。
30分の予定が1時間に延びた最終面接
その会社は、中規模以上の病院のコンサルティングを主な事業にしている会社でした。 最終面接の予定時間は30分。
でも、結果的に、その面接は1時間に延びました。
面接官は、最初にこう前置きをしました。
「私が就職活動をしていたとき、自分が会社に聞きたいことを聞けないまま内定をもらって、結局よくわからないままで選べなかった経験があるんです。だから今日は、この場でなんでも聞いてください」
そして、面接官は私にこう問いかけました。
「より良い医療って、なんだと思いますか?」
そして、こう続けました。
「病院の7割が赤字なのを知っていますか?」
「税金や保険料が原資なのに、それで赤字って、おかしくないですか?」
「赤字だと、人材は集まらないですよね」
「定着するような環境は作れない。いい条件も出せない」
「だから、黒字化が大前提なんです」
それは、第2話までの私が「コンサルは医療の倫理を逸脱しがちだ」と思っていた感覚を、根本から問い直す言葉でした。
「病院の7割が赤字」——その数字を、私はその場でようやく事実として直視した気がします。
そして「税金や保険料が原資」という言葉が、続けて私の胸を突きました。 医療現場にいると、経営の数字は「誰かが見ている話」になりがちです。
でも、その原資は、私たち自身も払っている税金であり、保険料です。「誰か」が回らなくなれば、現場も止まる。
利益を出さないと、人材は集まらない。
人材が集まらないと、医療は続けられない。
現場の倫理と、経営の論理は、対立するものではなく、地続きのものだった。
その事実を、私はその瞬間にようやく腹落ちさせたんです。
病院コンサルの「現実」を教えてくれた
そして面接官は、具体的に病院コンサルの仕事内容を話してくれました。
「例えば今、地域包括ケア病棟を作る病院が増えています。療養病床からの転換をすると、回転率が上がって売上も上げることができます」
「私たちは、その施設基準を満たす手伝いや、組織改革のサポートをすることがあります」
「ただ——」
「それで売上が上がって利益が出たからといって、それが看護師さんの業務を楽にしたり、業務効率化につながったり、医師や看護師の人材を増やすほうに使われるかというと、そこまでは手をつけられない部分なんです」
「うちのやっているコンサルタントの仕事は、そこまでなんです」
面接官は私を見て、こう言いました。
「〇〇さんは、患者さんの満足度を上げたいとか、看護師の離職を防ぎたいとか、業務改善をしたい——そういう想いがあるのかもしれない。でも、それが本当に叶うのかというところは、実際問題、難しいです」
——その言葉で、私の中で何かが整理されていきました。
私は、「その先」がやりたかったんだ。
正直に返した
その話を聞いて、私はそこで正直に返しました。
「一つ一つを、変えていくしかないんですね」
利益も増やして、業務改善もして、患者満足度も上げて、離職率も減らして—— そんなふうに全部を一度にやることはできない。
やれることを一つずつやる。
その積み重ねでしか、医療現場は変えられない。
そう納得しました。
そして同時に、気づきました。
「コンサル会社で働いて、業務の中で現場の看護師の働き方を改革するというところまで手を伸ばすのは、構造的に難しい」
病院コンサルの仕事は、病院の経営者に向けた仕事。
現場の看護師の業務改善は、その先にある「波及効果」でしかない。
私が本当にやりたいことは、そこじゃないんだ。
その面接官には、今でも本当に感謝しています。
業界の裏側を、本気で教えてくれたから、私は自分の道に気づけたんです。
普通の面接官なら、自社の魅力をアピールして内定を取りに行きます。
でもあの面接官は、それより、私が仕事に求めるやりがいを正しく選択をすることを優先してくれた。
これが、30分の面接が1時間に延びた、最終面接で起きたことです。

唯一、内定をくれた会社も辞退した
そして、最終面接まで進んだもう1社——8社の中で唯一、私に内定を出してくれた会社です。
この会社は私が最後に受けたところで、コンサルの面接にも慣れていました。
私が話す体験談を、面接官は深く頷きながら聞いてくれました。
そして、「〇〇さんの現場での経験は、私たちが欲しい視点です」と言ってくれて、内定をいただきました。
それまでたくさん落ちてきた私にとって、本当に嬉しい言葉でした。
ここでも、一つ実感したことがあります。
医療従事者の現場経験は、ビジネス側から見ると「内側からしか得られない情報」として、確かな価値を持っている。
私たちが「当たり前」と思っている日々の業務、判断、観察 —— それらは、外の世界から見ると、お金を払ってでも欲しい知見なんです。
面接していただいた方には大変申し訳ないのですが、私はその内定を、辞退しました。
ひとつ前に受けた会社の最終面接で気づかされたことが、私の中で答えになっていたからです。
「現場から経営を変える」という選択
私がやりたいのは、「外から提案するコンサル」ではなく、
「現場に入って、現場から経営を改善させる」ことでした。
ここで「第2話」に繋がりますが、私が「現場から経営を変えたい」という結論に辿り着いたのは、4社のコンサルを現場から見た経験に加えて、自分がコンサル業界への転職を本気で考えたからこそ辿り着いた答えだったんです。
8社受けて、最終面接で1社を辞退して、唯一の内定も辞退して、ようやくここに辿り着いたんです。
落ち続けた経験も、辞退した経験も、そしてあの面接官の熱弁も、結果として、自分が本当にやりたいことに気づかせてくれる過程でした。
ここまで読んで、もしかしたら「コンサル、ちょっと大変そうな業界だな」と感じた方もいるかもしれません。
でも、誤解しないでほしいのは—— 私は、コンサルの仕事そのものを否定したいわけじゃないということです。
病院の7割が赤字、というあの数字。
それを少しでもどうにかするために、外から経営を立て直しに入る仕事。
簡単ではありません。
でも、それができたら、病院が潰れずに済む。
医療が、その地域で続けられる。
そこで働く医師や看護師の生活も、患者さんが受けられる医療も、守られる。
やりがいのある仕事だと思います。
あの面接官が「黒字化が大前提なんです」と熱を込めて話してくれたとき、その目には、ちゃんと使命感がありました。
ではなぜ、私は選ばなかったのか。
私は、目の前の人の反応がやりがいになる人間だった。
人の反応が直接返ってくる場所が、私は単純に好きなんです。
コンサルの仕事は、もっと長いスパンで、もっと大きな単位で、世の中に効いていく仕事です。 それは尊いことだけど、現在の私の性質には、ちょっと遠すぎました。
8社の挑戦が、私を看護師に戻した
転職活動を終えて、私はまた看護師の現場に戻りました。 そして、コンサルにならなかったからこそ、今の私の働き方があります。
第2話でも書きましたが、私は、
開業して1年未満の外来クリニックの黒字化を達成し
現在は、訪問看護・訪問診療の現場で働きながら
自分の職場のサイトや広告を自作し、集患に貢献し
副業としてWebサイト制作と運用に関わっている
——という、「現場の中にいながら、複数の領域で動く」働き方をしています。
私は今でも、診療報酬を学び続けています。 Web制作やAIも学んでいます。医療経営士の資格の勉強もしています。
面接に落ちた経験が、今の私を作っていると思っています。
最後に
長くなりましたが、最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
転職活動をしてみて、一番意外だったことがあるんです。
それは、履歴書を書いたり、面接で自分をアピールしたりする経験そのものが、今の働き方まで変えてくれたことです。
職務経歴書に自分の実績を書こうとすると、ふと気づきます。
「私、この1年で何を成し遂げただろう」
「職場のために、何をやってきたか」
「次に転職するとして、通用する自分になれてるかな」
そういう問いが、いつのまにか日々の働き方を変えていくんです。
目標を持って働くようになる。
小さくてもいいから、自分の実績を作ろうとする。
1年後の自分がちゃんと成長していられるように、今日を選ぶようになる。
そうやって、挑戦する自分に変わりました。
だから、挑戦は成功しなくてもいいと思っています。
動いてみること自体に、ちゃんと意味があります。
ここまで読んでくださった方が今、何かに迷っていたり、挑戦してみたいけど一歩が出ない状態だったら、ぜひ動いてみてください。
落ちても、辞退しても、その経験はすべてあなたの土台になります。
私の挑戦が、誰かの一歩を後押しできたら嬉しいです。
