第七話 猫|新しい春
第三章 ユウ先輩編
第七話 「猫」
ある日の授業終わり。
「じゃあ帰ろっか。」
ユリとナナと三人で
駅へ向かって歩き出した。
校門を出たところで、
「あっ。」
思わず立ち止まる。
「どうしたの?」
「上着、ラウンジに忘れてきた!」
「取ってくる!」
「先に帰ってて。」
「わかった。気をつけてね。」
二人に手を振り、
私は一人で大学へ戻った。
夕方のキャンパスは、
昼間より少しだけ静かだった。
急ぎ足でラウンジへ向かう途中、
校舎裏の植え込みの前で、
ふと足が止まった。
誰かがしゃがんでいる。
その横顔に見覚えがあった。
……ユウ先輩。
足元には、茶トラの猫が一匹。
ユウ先輩は何も話さず、
猫の頭をゆっくり撫でていた。
猫も安心しきったように、
目を細めている。
その穏やかな横顔から、
私は目を離せなかった。
サークルでは見たことのない表情だった。
思わず見とれていると、
ユウ先輩がゆっくり顔を上げた。
「あ。」
目が合う。
「……こんにちは。」
「あれ?…リオ?」
少しだけ笑いながら手を止めた。
「猫、好き?」
「はい。」
そう答えたものの、
「……どちらかというと、犬派なんですけどね。」
そう言うと、
ユウ先輩が小さく笑った。
「実家で飼ってるんです。」
「へぇ。」
静かな時間が流れる。
私も少し離れたところへしゃがむ。
猫はちらっと私を見る。
でも、
すぐにユウ先輩の方へ歩いていき、
足元へ体をすり寄せた。
「懐いてますね。」
「たまに会うからかな。」
ユウ先輩はそう言って、
また猫を撫でた。

夕方の風が、
若葉をやさしく揺らしていた。
でも、なんでだろう。
沈黙なのに、
不思議と気まずくない。
何も話さない時間が、
こんなに心地いいなんて、
知らなかった。
「じゃあ。」
ユウ先輩が立ち上がる。
「お疲れ。」
「お疲れさまです。」
歩いていく後ろ姿を、
なんとなく見送る。
帰り道。
気づけば、
猫を撫でるユウ先輩の姿を、
何度も思い出していた。
その日から、
私は校舎裏を通ることが
少しだけ増えた。
あの場所へ行けば、
会えるとは限らない。
それでも、
また行きたいと思った。
もちろん、
猫に会うため。
……そういうことにしていた。
第八話へ続く
