第八話 隣にいる時間|10年越しの答え合わせ
第二章 ナオ君編
第八話 「隣にいる時間」
カラオケに行ってからも、
毎日のメールは続いていた。
でも、一つだけ変わったことがある。
メールをしているだけなのに、
次はいつ会えるんだろう。
そんなことを考えるようになっていた。
ある日の夜。
『今度、映画行かない?』
思い切って送ると、
返事はすぐに返ってきた。
『うん😊』
その二文字だけで、
自然と口角が上がる。
「また会える。」
そのことが、何より嬉しかった。
約束の日。
映画館は思っていたより混んでいた。
土曜日の午後。
学生もカップルも多くて、
チケット売り場には長い列ができている。
「結構混んでるね。」
「だね。」
そんな何気ない会話を交わしながら、
列に並ぶ。
この前みたいな緊張は、
もうなかった。
その代わり、
隣にいることが、
なんだか当たり前になってきている気がした。
館内が暗くなる。
スクリーンの光が、
時々リオの横顔を照らした。
笑う場面では、
リオも笑う。
驚く場面では、
ほとんど同じタイミングで息をのむ。
映画を観ているはずなのに、
そんな小さなことばかりが嬉しかった。

上映が終わる。
館内に明かりが灯ると、
さっきまで映画の世界にいた人たちが、
一斉に現実へ戻っていく。
「面白かったね。」
リオが笑う。
「うん。思ってたよりよかった。」
映画の話をしながら、
ゆっくり出口へ向かった。
外へ出ると、
夕暮れのやわらかい光が街を包んでいた。
人で賑わう歩道を、
二人で並んで歩く。
「あのシーン、ちょっと泣きそうにならなかった?」
「あー、あそこね。」
「ナオ君、絶対笑ってると思った。」
「いや、俺も危なかったって。」
くだらないことで笑い合う。
映画の話は、
いつの間にか学校のことになって、
友達のことになって、
また映画の話に戻って。
話題は次から次へと変わるのに、
会話が途切れることはなかった。
交差点。
赤信号が、
少しだけ長く感じる。
でも、
青に変わると、
「もう少し赤のままでもよかったのに。」
そんなことを思っている自分がいた。

駅が見えてくる。
「今日はありがとう。」
「こちらこそ。」
いつものように笑い合う。
それだけなのに、
別れるのが少しだけ惜しかった。
電車に揺られ、
窓の外を流れる景色を眺めながら、
今日のことを思い返していた。
映画の内容は、
もうほとんど覚えていない。
でも、
笑っていたリオの横顔。
歩幅を合わせて歩いた帰り道。
「またね。」
そう言って手を振った笑顔だけは、
何度思い返しても、
はっきり浮かんできた。
携帯が震える。
『今日はありがとう😊』
リオからだった。
思わず笑って、
すぐに返事を打つ。
『こちらこそ😊』
送信したあとも、
携帯を閉じられなかった。
画面には、
さっきまで隣で笑っていたリオとの、
短いやり取りが並んでいる。
それだけで、
次に会う日が待ち遠しかった。
でも、その時の俺は、
まだ知らなかった。
「受験が終わったら。」
その一言が、
思っていたよりも、
ずっと長い約束になることを。
第九話へ続く
リオ編も読んで、
答え合わせしませんか?
