第七話 受験が終わったら|10年越しの答え合わせ
二回目のデートは映画だった。
映画の内容は、
正直ほとんど覚えていない。
覚えているのは、
隣にナオ君が座っていたこと。
映画館の暗闇の中、
少し肩が触れそうで触れない距離だったこと。
そして、
一緒に同じ時間を過ごしたこと。
それだけだった。
でも十分だった。
あの頃の私たちは、恋人ではなかった。
告白もしていない。
手も繋いでいない。
それなのに、
会うたびに少しずつ距離が縮まっている気がした。
未来はきっと続いていく。
そんなふうに思っていた。
高校三年生の秋頃。
周りの空気が少しずつ変わり始める。
受験。
進路。
将来。
教室の会話も、
遊びより進学の話が増えていった。
ナオ君は専門学校志望で、
私は大学を目指していた。
それまで毎日のように続いていたメールも、
少しずつ自然と減っていった。
本当に忙しかった。
でも、それだけじゃなかった気もする。
お互いに、
少しずつ将来へ向かい始めていた。

そんなある日。
ナオ君からメールが届いた。
『推薦決まったよー!』
私は自分のことのように嬉しかった。
『おめでとう!』
すぐ返信した。
すると続けてメールが届く。
『この前の映画ちょっと微妙だったじゃん』
思わず笑ってしまった。
『今度は違うやつ観に行こうよ』
その文章を見て、
胸が少しだけ苦しくなった。
行きたかった。本当に。
でも、
受験まで残りわずかだった。
塾。
模試。
毎日が焦りでいっぱいだった。
私はしばらく悩んで返信した。
『ごめん』
『今ちょうど受験の直前だから』
『終わったら行こう😢』
送信ボタンを押した。
数分後、
返信が来る。
『了解😊』
たったそれだけだった。
私は安心した。
終わったら行けばいい。
春になればまた会える。
そう思っていた。
その時の私は知らなかった。
あのメールが、
二人の最後の約束になることを。
それから数ヶ月後。
私は無事に大学へ合格した。
合格通知を確認した日、
真っ先にナオ君のことが浮かんだ。
伝えたい。そう思った。
『大学受かったよ!』
久しぶりにメールを送る。
『おー!おめでとう🌸』
ナオ君は祝福してくれた。
私は少しだけ待った。
もしかしたら、
映画の話が出るかもしれない。
『じゃあ約束してた映画行こう』
そんな言葉を期待していた。
でも、その話は出なかった。
私も言えなかった。
自分から誘う勇気がなかった。
久しぶりのメールは、
思ったより早く終わった。
それからまた、
メールが届くことはなかった。

卒業式の日。
桜はまだ咲いていなかった。
私は卒業証書を手に、ふと思った。
もう会わないのかな。
ナオ君…。
その答えは分からなかった。
ただ一つだけ分かっていた。
私はあの日、
映画を断ったことを少し後悔していた。
もちろん受験は大事だった。
断ったこと自体は間違っていない。
でも。
もし最初にメールしていた時に、
そのまま関係が進んでいたら。
もしあの日、
映画に行っていたら。
もしあの日、
私から誘っていたら。
未来は少し違ったのだろうか。
そんなことを考えながら、
私は高校を卒業した。
そして、
それから半年経ったあと。
私は街角で、
思いもよらない再会をすることになる。
【第八話へ続く】
「偶然、また偶然」
