第九話 電話の向こう側|10年越しの答え合わせ
二度の偶然があったあとも、
私たちの関係は変わらなかった。
また連絡を取り合うようになるわけでもなく、
会う約束をするわけでもなく、
ただ、
たまに思い出す人のままだった。
そして数ヶ月後。
その日私は
友達数人とご飯を食べていた。
みんなで笑いながら話していると、
テーブルの上の携帯が震えた。
着信だった。
画面を見てドキッとする。
「ナオ君」
私は思わず固まった。
電話?
メールじゃなくて?
急用?
慌てて席を立つ。
「ちょっとごめん」
店の外へ出て通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あ、久しぶり』
懐かしい声だった。
高校生の頃より
少し低く聞こえたけれど、
すぐに分かった。
ナオ君だ。

『最近シンヤと仲良いの?』
予想もしなかった質問だった。
シンヤは当時よく遊んでいた
仲間のうちの一人。
私は笑いながら答える。
「仲良いっていうか普通に友達だよ」
『そうなんだ』
電話の向こうで笑う声がした。
『今さ、シンヤと遊んでるんだよね』
私は少し驚いた。
ナオ君とシンヤが
同じ高校出身だというのは知っていた。
でも、
そんなに仲が良いとは知らなかった。
私はあえてシンヤに
ナオ君の話はしていなかった。
『で、リオの話になって』
『ちょっと電話してみようってなってさ』
そう言ってナオ君は笑った。
私は少しだけ期待していた。
もしかしたら
何か話したいことがあったのかな。
もしかしたら
私に用事があったのかな。
そんなふうに思っていた。
でも実際には違った。
『ほら、代わるわ』
次の瞬間、
電話はシンヤに代わった。
『急にごめんー。てか、お前ら知り合いだったの!?』
シンヤの明るい声が聞こえる。
しばらく話して電話は終わった。
友達のところに戻る道で、
私は少しだけ苦笑いした。
なんだ
そういうことか。
私は勝手に期待していたらしい。
ナオ君が私に電話したかったんじゃなくて、
ただその場の流れだったんだ。
少しだけ恥ずかしかった。
少しだけ残念だった。
ただ、
また少し期待して、
また少し傷ついただけだった。
そして私は、
この出来事も心の奥へしまい込んだ。
ナオ君との物語は、
きっともう終わったんだ。
20代に入ってからは、
ナオ君と連絡を取ることは一度もなかった。
それから社会人になり、
恋愛をして、失恋をして、
また恋愛をした。
人生は少しずつ前へ進んでいく。
ナオ君のことを思い出す回数も、
少しずつ減っていった。
それなのに。
なぜか完全に忘れることはなかった。
そして数年後。
結婚を決めた私の元へ、
思いもよらない連絡が届くことになる。
【第十話へ続く】
「結婚する運命の人」
