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第一話 覚えてる?|10年越しの答え合わせ


結婚式まで、あと三ヶ月だった。

新居は決まっていた。

週末になると、
彼と二人で家具を見に行った。

カーテンの色を選んだり、
食器棚のサイズを測ったり。

これから始まる生活を想像するだけで、
胸がふわっと明るくなった。

式場との打ち合わせも、
ほとんど終盤に入っていた。

招待状も出した。

ドレスも決めた。

あとは当日を待つだけ。

私はちゃんと、幸せだった。

そのはずだった。


残業中の夜のオフィスは静かで、
パソコンのキーを打つ音だけが
やけに響いていた。

時計を見ると、もう七時半を過ぎている。

早く終わらせて帰ろう。

そう思った時、
机の上に置いたスマホが小さく震えた。

LINEの通知。

何気なく画面を見た私は、一瞬、息が止まった。


表示されていた名前は、「ナオキ」。



一瞬、心臓が止まった気がした。

十年以上見ていない名前だった。

付き合ったことはない。

告白されたこともない。

私から気持ちを伝えたこともない。

それなのに、
高校を卒業してからも、
ずっと頭の片隅にいた人。

何度もすれ違って。

何度も何も起きなくて。

そのたびに、
今度こそ終わったんだと思ってきた人。


私は反射的にスマホを伏せた。

誰かに見られたわけでもないのに、
胸の奥を覗かれたような気がした。

なんで今なんだろう。

どうして、このタイミングなんだろう。

結婚式まで、あと三ヶ月。

人生が前に進もうとしている時に。


もう一度スマホを手に取る。

画面には、たった一言だけが表示されていた。


「覚えてるー?」


拍子抜けしてしまった。

十年ぶりの連絡が、それなんだ。

でも、たったそれだけの言葉で、
心は簡単に高校生の頃へ戻ってしまった。

寝る前まで続いたメール。

初めて二人で会った日の緊張。

受験前に交わした約束。

街で偶然すれ違った日の動揺。

言えなかった気持ち。

聞けなかった気持ち。

もう思い出になったはずのものが、
一気に胸の奥からこぼれてきた。


仕事に集中しようとしても無理だった。

画面の数字を見ているのに、
頭の中ではずっと返信を考えていた。

なんて返せばいいんだろう。

軽く?

懐かしそうに?

それとも、何もなかったみたいに?

高校生の頃から、私はいつもそうだった。

考えすぎて、動けなくなる。


帰りの電車で、私はようやくLINEを開いた。

既読がつく。

それだけで、心臓が少し速くなった。

何度も文字を打っては消した。

そして結局、送ったのは短い一文だった。


「もちろん覚えてるよ」


送信した瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。

あの頃の私は、知らなかった。

十年後に、
また彼と会うことになるなんて。

そしてその再会が、
ずっと心の片隅に置いたままだった気持ちの、
答え合わせになるなんて。


私とナオ君の始まりは、
高校二年生の終わりまで遡る。

【第二話へ続く】
「プリ帳から始まった恋」


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