第二話 プリ帳から始まった恋|10年越しの答え合わせ
私とナオ君が出会ったのは、
高校二年生の終わり頃だった。
といっても、最初は会ったわけじゃない。
たった一枚の写メを見ただけだった。
その日は日曜日だった。
部活もなくて、特に予定もなかった。
昼ご飯を食べたあと、
なんとなく横になった私は、
そのまま眠ってしまった。
目が覚めた時には、もう夕方だった。
カーテンの隙間から
オレンジ色の光が差し込んでいる。
「やばい、寝すぎた」
そう思いながら携帯を開くと、
親友のマユから何件も着信が入っていた。
慌ててメールを開く。
『電話ごめん!
今日、中学の同級生で集まってたんだけど、
プリ帳見た友達がリオのこと
紹介してほしいって言ってて!
また明日話そ😊』
メールには一枚の写メが添付されていた。
私は何気なく画像を開いた。
そして、少しだけ固まった。

「え……」
かっこいい。
それが最初の感想だった。
チャラくない。
でも地味ではなくおしゃれ。
優しそうな笑顔。
たぶん学校でも
モテるタイプなんだろうなと思った。
そんな男の子が、私を?
信じられなかった。
当時の私は、
恋愛経験がほとんどなかった。
男の子と話すのも得意じゃない。
自分から好きになることも、
好きになられることも、
あまり想像したことがなかった。
だから余計に戸惑った。
本当はすぐマユに電話したかった。
どんな人なの?
なんで私?
なんて言ってた?
聞きたいことは山ほどあった。
でも私は昔からそういうことができない。
平静を装って返信した。
『電話出れなくてごめん!
わかった!また明日聞かせて😊』
送信したあと、
私はもう一度写メを開いた。
そしてまた閉じた。
恥ずかしくなって。
でも数分後にはまた開いていた。
不思議な感覚だった。
まだ会ったこともないのに。
翌日。
私は朝からソワソワしていた。
チャイムが鳴ると同時に、
隣のクラスへ向かった。
マユは私の顔を見るなり笑った。
「気になるでしょ?」
図星だった。
「で、どんな人なの?」
私がそう聞くと、
マユは嬉しそうに話し始めた。
「同じ中学だったナオキっていうんだけどさ」
「昨日プリ帳見て、リオ可愛いって言ってたよ」
「紹介してほしいって頼まれた」
私は思わず黙って頬を赤らめた。
恥ずかしかったから。
そんなことを言われた経験なんて、
ほとんどなかった。
「リオはどう?」
どう、と聞かれても困る。
会ったこともない。
話したこともない。
それなのに、
昨日から何度も写メを見返している。
私は少しだけ考えてから答えた。
「メールでいいなら……してみたいかも」
その瞬間、
マユが大げさなくらい喜んだ。
「やったー!」
「ナオキはね、マジでおすすめBOYだから!」
マユがそこまで言うなんて、
きっと素敵な男の子なんだろう。
その日の夜。
携帯が鳴った。
『はじめまして。
マユから聞いてると思うけど、ナオキです。
よろしく😊』
私は携帯を見つめたまま動けなかった。
来た。
本当に来た。
すぐ返したい。
でも待ってたと思われたくない。
だから少し時間を空ける。
五分。
十分。
十五分。
既読機能もない時代なのに、
私は一人で駆け引きをしていた。
ようやく返信する。
『はじめまして。
リオです。
よろしくね😊』
そこから会話が始まった。
好きな音楽。
学校の話。
友達の話。
たわいもない内容ばかりだった。
でも不思議なくらい楽しかった。
『なんて呼べばいい?』
そんなやり取りになった時、
私は少し迷った。
『俺はナオキでいいよー』
画面を見つめる。
ナオキ。
呼び捨て。
彼氏でもないのに、
なんだか恥ずかしい。
私は少し考えて返信した。
『じゃあ、ナオ君って呼ぶね』
送信したあと、
なんだか顔が熱くなった。

たぶん。
今思えば。
あの瞬間だったんだと思う。
ナオ君がただの男の子じゃなくなったのは。
この日から私たちは、
授業の合間も、
家に帰ってからも、
寝る直前まで、
毎日メールをするようになった。
携帯が鳴るたび嬉しかった。
メールを待つ時間が増えた。
そして私は少しずつ、
ナオ君との未来を想像するようになっていた。
その恋が、
始まる前に終わることも知らずに。
【第三話へ続く】
「恋が始まる前に終わった日」
