第三話 恋が始まる前に終わった日|10年越しの答え合わせ
あの頃の私は、携帯ばかり気にしていた。
授業中。
休み時間。
部活の帰り道。
家に帰ってから。
そして布団に入ったあと。
この頃は、
個別に着信音が変えられる時代だった。
ナオ君からのメールには、
一番好きな曲を設定していた。
その曲が流れるだけで、
自然と口元がゆるんだ。
今思えば不思議だ。
まだ付き合ってもいない。
手を繋いだこともない。
会ったことだって一度もない。
それなのに、
私は毎日ナオ君のことを考えていた。
今日は何してるんだろう。
今頃部活かな?
もう寝たかな?
そんなことを考える時間が、
少しずつ増えていた。
メールの内容は特別なものじゃなかった。
本当にどうでもいい話ばかり。
でも、
好きになるって、
たぶんそういうことなんだと思う。
特別な言葉じゃなくていい。
何気ないやり取りを、
もっと続けたいと思うこと。
私は少しずつ、
ナオ君との未来を期待していた。
そして、そのメールは届いた。
いつものように携帯を開く。
いつものように
ナオ君の名前が表示される。
でも。
内容だけが違った。
『ごめん』
胸がざわつく。
続きを読む。
『前に好きだった子のことが、
まだ忘れられてないみたい』
頭が真っ白になった。
『こんな気持ちで
リオとメールするのはダメだと思う』
『俺から言い出したのにごめん』
何度も読み返した。
意味が理解できなかった。
だって昨日まで普通だった。
楽しくメールしていた。
何も変わらなかった。
なのに。
なんで?
その言葉だけが頭の中を回る。
なんで私に声をかけたの?
なんで毎日メールしたの?
なんで今なの?
聞きたかった。
本当は聞きたかった。
でも私は昔から、
相手を困らせることが苦手だった。
だから。
『そっか』と打つ。
『短い間だったけど、ありがとう』
『その子とうまくいくといいね!』
送信ボタンを押した。
すぐに返信が来た。
『こちらこそありがとう』
それからずっと
画面は静かだった。
あたり前だ。
終わったんだから。
私は携帯を閉じた。
泣くほどじゃなかった。
付き合っていたわけじゃない。
失恋と呼べるのかも分からない。
でも。
胸のどこかにぽっかり穴が空いたような感覚だけが残った。

次の日。
携帯は鳴らなかった。
その次の日も。
またその次の日も。
私は何度も携帯を開いてしまう。
鳴るはずがないのに。
そのたびに、
終わったんだと実感した。
恋だったのかは分からない。
でも、
ナオ君が特別だったことだけは確かだった。
私はそうやって、
初めての失恋を胸の奥にしまった。
終わったと思っていた。
だから半年後、
耳を疑うような話を聞くことになる。
「ナオキがまたリオとメールしたがってるらしいよ」
【第四話へ続く】
「もう一度届いたメール」
