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第十三話 十年ぶりの待ち合わせ|10年越しの答え合わせ

約束の日が来た。

私は朝から落ち着かなかった。

電話を取り、
メールを返し、
資料を作る。

仕事はいつも通りにこなした。

やることは山ほどあるのに、
頭の片隅にはずっとナオ君がいた。

今日会うんだ。

十年ぶりに。

そう思うだけで、
胸の奥が少しざわつく。

もちろん、
恋愛感情がどうこうという話じゃない。

私は結婚する。

その気持ちは変わらなかった。

それでも、
高校生の頃に好きだった人。

何度もすれ違いながら、
最後まで答え合わせができなかった人。

そんな相手と十年ぶりに会うのだから、
平常心でいられるはずがなかった。


終業時間になると、
私は席を立った。

誰にも見つからないよう、
少し離れたフロアのトイレへ向かう。

鏡の前に立ち、
自分の顔を見つめた。

少し疲れている。

私は化粧ポーチを開き、
ファンデーションを重ねる。

リップを塗り直し、
前髪を整えた。

結婚式のために伸ばしていた髪も、
わざわざ持ってきたヘアアイロンで巻いてみる。

そこまでしている自分が、
少し不思議だった。

何を頑張っているんだろう。

そう思いながらも、
可愛く見られたい気持ちは隠せなかった。


その時だった。

トイレのドアが開き、
職場の先輩が入ってきた。

私を見るなり、
少し驚いたように笑う。

「わっ。

かわいい人いると思ったら、リオちゃんじゃん」

思わず笑ってしまう。

「お疲れ様です」

そう返したけれど、
心の中では興奮を隠せなかった。

本当ですか?

ちゃんと可愛く見えていますか?

今日、昔好きだった人に会うんです!

もちろん、
そんなこと言えるはずもない。

先輩が出て行ったあと、
もう一度鏡を見た。

よし、行こう。


お店へ向かう途中も、

落ち着かず何度もスマホを開いてしまう。

すると、
ナオ君からLINEが届いていた。

『もう着くよー』

その一言だけで、
心臓が少し速くなった。


私は少し早めに店へ着き、
入口の前で待つことにした。

何度も周りを見渡して
落ち着かない。

高校生の頃の初デートも、
きっとこんな顔をして待っていたんだろう。


私はLINEを送る。

『着いたからお店の前で待ってるね😊』

送信して数分後。
遠くから歩いてくる人影が見えた。

一瞬で分かった。

ナオ君だった。


十年ぶりなのに、
不思議なくらい迷わなかった。

少し大人になっていた。

少し落ち着いた雰囲気になっていた。

それでも、
笑った顔は高校生の頃とほとんど変わらない。


「お待たせ!」

その声を聞いた瞬間、
十年という時間が、
一気に縮まった気がした。

「久しぶり」

私は笑った。

十年ぶりなのに、
不思議と気まずさはなかった。

「行こっか」

ナオ君がそう言って歩き出す。

私は小さく頷き、
その隣に並んだ。


向かい合って席に座ると、
私はメニューを見るふりをしながら
少し深呼吸をした。

高校生の頃は、
まともに目も合わせられなかった。

でも今は違う。

仕事をして、お互い別々の人生を歩いてきた大人同士。

自然に話せると思っていた。


だけど実際は、思っていた以上に緊張していた。

それでも会話が始まると、
その緊張は少しずつほどけていった。

「あの頃ほんと話せなかったよね」

ナオ君が笑う。

「ナオ君もじゃん」

私も笑った。

「あんなにメールしてたのにさ」

「会うと全然話せなかったよね」

「そうそう」

二人で笑う。

十年の空白なんて、
最初からなかったみたいだった。


その時だった。

ナオ君がグラスを持ち上げた拍子に、
私は何気なく手元へ目をやった。

左手の薬指。

そこには指輪が光っていた。

一瞬、時間が止まったような気がした。


そうだ。
当たり前だよね。

私たちはもう二十八歳。
高校生じゃない。

結婚していても、
何も不思議じゃない年齢だった。

「結婚したの?」

できるだけ自然に聞くと、
ナオ君はあっさり頷いた。

「うん。半年ぐらい前に」

ナオ君はまだ結婚したばかりだった。


「そうなんだ」

私は笑顔を作った。

「おめでとう」

その言葉に嘘はなかった。
本当に祝福したかった。

でも胸の奥では、小さく何かが揺れた。

安堵だったのか。
寂しさだったのか。
自分でもよく分からなかった。


ナオ君は少し笑って聞いた。

「リオは?」

「結婚してるの?」

私は首を横に振る。

「まだ。でも、もうすぐだよ。」

「結婚式が三ヶ月後なんだ。」

ナオ君は少し驚いたように目を丸くした。

「そうなんだ。おめでとう。」

「ありがとう。」

少しだけ照れくさくなって笑う。

「まさか、お互い結婚してるなんてな。」

「ほんとだね。」

私たちは顔を見合わせて、少しだけ笑った。


「そういえば」

ナオくんがグラスを置く。

「奥さんの写真見る?」

突然そう言われ、私は思わず笑う。

「えっ!見せてくれるの?」

ナオ君はスマホを取り出し、
画面をこちらへ向けた。

そこには、
柔らかな笑顔が印象的な女性が写っていた。

優しそうで、とても可愛らしい人だった。

「可愛い人だね」

素直にそう言うと、ナオ君は笑った。
そして何気ない顔で言う。

「今さ」

「リオに似てるって思ったでしょ」


私は固まった。

え?
どういう意味?
頭の中で言葉が追いつかない。

もちろん、そんなことは口に出せない。

「思ってないし」

思わず笑ってしまった。

でも
その一言は、なぜかずっと胸の奥に残った。


それから私たちは、
お互いの仕事や結婚生活、
高校時代の友達のことまで、

途切れることなく話し続けた。

十年ぶりとは思えないほど自然で、
気づけば高校生の頃より
ずっと素直に笑えている自分がいた。

そして会話は少しずつ、
あの頃の思い出へと戻っていく。

私たちがまだ高校生だった頃。

言えなかったこと。

聞けなかったこと。

十年間、心のどこかに置き去りにしてきた時間へ。



【第十四話へ続く】

「誕生日を覚えていた人」


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