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第十四話 誕生日を覚えていた人|10年越しの答え合わせ


お互いの仕事のこと。
結婚生活のこと。
高校時代の友達のこと。

十年ぶりとは思えないくらい、
会話は自然と続いていた。


写真で見せてもらったナオ君の奥さんは、
優しそうで、柔らかい雰囲気の可愛い人だった。

私が素直に、

「可愛いね。」

と言うと、ナオ君は少し笑って言った。

「今、リオに似てるって思ったでしょ?」

一瞬、ドキッとした。

「思ってないし。」

笑って返したけれど、その言葉は妙に耳に残っていた。


すると今度は、ナオ君が私に聞いた。

「そういえば、リオの旦那さんはどんな人?」

「見る?」

私はスマホを取り出し、
旦那と二人で撮ったプリクラを見せた。

ナオ君は画面を覗き込む。

「こんな人だよ」

ナオ君は少し間をおくと、笑って言った。

「待って。リオが可愛くて、
リオにしか目がいかないんだけど。」

私は一瞬、返す言葉に困った。

ナオ君は昔から、冗談っぽく私を
「可愛い」と言うことがあった。

「何それ。」

私は笑って流したけれど、
内心かなり動揺していた。

十年前なら、
その一言だけで何日も浮かれていたと思う。

でも、
今の私には結婚する相手がいて、
ナオ君にも奥さんがいる。

だから、深い意味なんてない。


しばらくして、ナオ君が何気なく聞いた。

「今日さ。」

「俺と会うこと、旦那さんに言ってきた?」

私は一瞬、言葉に詰まった。

「……言ってない。」

正確には、言えなかった。

高校時代の友達と、
十年ぶりにご飯を食べるだけ。

そう言えばいいだけなのに、
私は最後まで言えなかった。

昔の男友達とはいえ、
二人きりで会うと知れば、
きっといい気はしない。

そう思ったから。

でも、それだけじゃなかった。

正直に話して、
もし「会わないでほしい」と言われたら。

私はきっと困ってしまう。

ナオ君との再会がなくなることが、
少し怖かった。

自分勝手だと分かっていた。



「ナオ君は?」

聞き返すと、彼はあっさり答えた。

「言ってきたよ。」

「え、そうなの?」

「うん。高校の時の女友達とご飯行ってくるって。」

少し驚いた。

私は言えなかったのに、
ナオ君はちゃんと話してきたんだ。

隠すつもりなんて、
最初からなかったのだろう。

「ナオ君らしいな。」

私は少しだけ安心した。



その時だった。

ナオ君がふと思い出したように口を開く。

「そういえばさ。」

「俺、リオの誕生日まだ覚えてるよ。」

私は思わず顔を上げた。

「え?」

ナオ君は少し得意そうな顔で言う。

「九月十六日。」

一瞬、言葉が出なかった。

高校を卒業してから十年。
どうして覚えているんだろう。

「すごいね。」

思わず笑う。

「ちゃんと合ってる。」

ナオ君も嬉しそうに笑った。

「でしょ?」

私は少し照れながら言う。

「私も覚えてるよ。」

今度はナオ君が驚いた。

「え、マジで?」

「五月八日。」

「正解!」

「よかった〜。」

そんな何気ないやり取りなのに、
胸の奥が少しだけ温かくなった。

十年近く会っていなかったのに、
誕生日だけはお互い忘れていなかった。

そんな人は、私の人生でナオ君だけだった。

もしかしたら、

ナオ君も時々思い出してくれていたんだろうか。

そんなことを考えた。


しばらくして、ナオ君が別の話を始めた。

「あ、そうだ。」

「シンヤ覚えてる?」

私は少しだけ笑った。

忘れるわけがない。
大学生の頃、突然電話を代わったあの友達だ。

「覚えてるよ。」

ナオ君が少し笑いながら聞いてきた。

「結局さ。」

「付き合ったの?」

私は一瞬、何のことか分からなかった。

「誰と?」

「シンヤと。」

思わず笑ってしまう。

「付き合ってないよ。」

そう答えると、

ナオ君はどこかほっとしたように笑った。

「よかった〜。」


私は首を傾げる。

「なんで?」

ナオ君は少し照れくさそうに視線をそらした。

「いや……。」

少し間が空く。

「それは……。」

ナオ君は手元のグラスへ視線を落とした。

私はその続きを待った。

十年間、ずっと知りたかった答えを。

【第15話(最終話)へ続く】

『答え合わせのその先』


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