第十一話 また、動き出した時間|10年越しの答え合わせ

『覚えてるー?』
ナオ君からの十年ぶりのメッセージは、
たったそれだけだった。
私はスマホの画面を見つめたまま固まった。
「なんで今なんだろう」
それが最初に浮かんだ言葉だった。
結婚式まであと三ヶ月。
新居も決まり、招待状も送り終え、
人生が次のステージへ
進もうとしていた頃だった。
そんなタイミングで、
どうしてナオ君が現れたんだろう。
私は既読をつけずに
スマホを伏せた。
仕事はまだ山積みだった。
でも頭の中は、
もう仕事どころではなかった。
「なんて返そう」
返すべき?
返さない方がいい?
いや、返さないのも変だよね。
でも……
なんで今?
高校生の頃と変わらない。
私はまた、一人で考えすぎていた。
結局その場では返信できず、
スマホをカバンへしまう。
仕事に集中しようとしても、
パソコンの画面の向こうには、
ナオ君のことしか浮かばなかった。
十年前のこと。
カラオケ。
映画。
交差点ですれ違った日。
広場で手を振り合ったこと。
突然かかってきた電話。
忘れていたはずの記憶が、
次々によみがえってくる。

帰りの電車で、
私はようやくLINEを開いた。
文字を打っては消し、
また打っては消す。
何度も繰り返したあと、
結局送ったのは、
たった一文だった。
『もちろん覚えてるよ😊』
すると数分後には返信が来た。
『よかったー!』
あまりにも早くて、
まるで待っていたみたいだった。
思わず笑ってしまう。
その後は、
『元気してた?』
『仕事何してるの?』
『今はどこに住んでるの?』
本当にたわいもない話ばかりをした。
でも不思議だった。
十年も会っていないのに、
昨日まで話していたような感覚になる。
時間だけが飛んでしまったみたいだった。
私は結婚する。
その事実は変わらない。
夫のことも好きだった。
だから後ろめたい気持ちは何もなかった。
それなのに、
LINEが届くたび、
少しだけ嬉しい自分がいた。
ある日の夜。
仕事の話から、
自然と高校時代の話になった。
「あの頃若かったね」
そんなやり取りをしていた時だった。
突然、
ナオ君からLINEが届く。
『久々にリオに会ってみたいな』
心臓が大きく跳ねた。
私は画面を見つめたまま、
しばらく返信できなかった。
「会う」
その言葉の意味を、
考えずにはいられなかった。
十年前なら、
きっと舞い上がっていたと思う。
でも今は違う。
私はもうすぐ結婚する。
ナオ君も、
きっと大人になっている。
だから、深い意味なんてない。
そう思うことにした。
『そうだね😊』
私はそれだけ返し、別の話を始めた。
ナオ君も、
それ以上何も言わなかった。
少し安心した。
でも同時に、
ほんの少しだけ残念だった。
その時の私はまだ知らない。
ナオ君の「会いたい」が、
社交辞令でも冗談でもなかったことを。
数週間後。
私たちは本当に、
十年ぶりに会う約束をすることになる。
【第十二話へ続く】
「今度、会わない?」
