第五話 名前|新しい春
第三章 ユウ先輩編
第五話 「名前」
この日のサークルは、
みんなでバレーボールをすることになった。
試合の前に、
ネットやボールの準備をみんなで手分けする。
「私ボール運ぶ!」
ユリが真っ先に走っていく。
「じゃあ私は得点板持ってくるね。」
ナナもすぐに動き出した。
二人とも迷いがない。
私はというと、
何をすればいいのか分からず、
その場でオロオロしていた。
そんな私を見つけたハヤト先輩が笑う。
「ユウ、ネットお願い。」
「リオ、一緒に手伝って。」
「あ、はい!」
返事をしたのと同時に、
少し離れたところにいたユウ先輩が私を見た。
その一瞬だけ、
目が合った気がした。
「リオ。」
その一言に、
思わず息が止まる。
今、
名前を呼ばれた……?
初めてだった。
ユウ先輩が、 私の名前を呼んでくれたのは。
「こっち持って。」
「あ、はい!」
慌ててネットを受け取る。
返事をしながら、
頬が少し熱くなるのを感じた。
ユウ先輩が、丸められたネットを広げた。
私は反対側を受け取る。
二人でネットを持ったまま、
体育館の反対側の支柱まで歩く。
「そこ、フックに掛けられる?」
私は背伸びをして手を伸ばす。
……あと少し。
届かない。
「すみません、届かなくて‥。」
「あ、そっちいく。」
そう言うと、ユウ先輩が私のすぐ横まで来た。
「届く?」
ネットがふわっと高くなる。
もう一度背伸びをすると、今度はフックに掛かった。
「できた。」
「ありがとうございます。」
ネットを掛け終えて、ほっと息をつく。
ふと視線を落とす。
すぐ隣には、
ユウ先輩の手。
触れそうで、触れない。
それだけなのに、
急に鼓動がうるさくなった。
慌ててネットへ視線を戻した。
たぶん、
ユウ先輩は何も考えていない。
そう思うほど、
私だけが意識していることが恥ずかしかった。

「よし、できた。」
ネットが張り終わる。
「ありがとう」
そう言って、
ユウ先輩はコートの方へ戻っていった。
帰り道。
「リオ、今日ネット張るの頑張ってたね!」
ユリが笑う。
「届いてなかったけどね。」
照れ隠しに笑う。
でも、
心の中では、
さっきの「リオ」が
何度も繰り返されていた。
あの日からだった。
サークルへ行く理由が、
少しだけ変わったのは。
そして、
ユウ先輩に名前を呼ばれるたび、
胸が少しだけ高鳴るようになった。
第六話に続く
